やり手営業ウーマン

峰は某コンビニチェーンの本部の仕入れ部門ではたらいている。 コンビニに並ぶ、さまざまな商材の仕入れ先の開拓や手配を任されている。 先月退職した前任者の後を課長昇進にともない引き継いだのだ。 前任の課長は仕事によるストレスで仕事を続けられなくなったらしい。 そのおかげで峰は30歳で課長に昇進。 (会社人生とはこんなものか。 ) 課長になって半年になるが現在のポストに不満はない。 仕事にも慣れ、特にストレスも感じない。 仕事そのものはそれほどハードとは思えない。 優秀な部下と派遣社員がバックアップしてくれるので 業務は至ってスムーズに進行している。 女性は魅力的な子が多く、仕事には意欲的で、男性社員も従順でやりやすい。 上司は峰が支社にいたころ仕えた、気心の知れた人物で、 峰に好意的だ。 今回峰を後任に推薦してくれたのも彼のプッシュが大きい。 前任者は最後は精神状態が不安定だったという。 峰には、なにが前任者にストレスをかけたのかわからない、 たまたま人間関係でつまずいてしまったのか。 管理職に向いていなかったということか。 その点、峰は違うようだ。ここは理想的だ。 峰自身、気力もみなぎっている。 峰はこの調子であれば、30代半ばにして部長に昇進も夢ではないかも。 30代で部長となれば男も上がるというもの。 女性もよりどりみどり、不倫もいいかも。 (ふふふ、まったく悪くない。) などとほくそえんでいると、女性社員が耳元で囁く声で我に返った。、 「課長、受付にO商事の営業の方がお見えになったそうです。 一緒に会っていただけませんか。」 この女性社員は斉藤薫主任である。峰が直属の上司で とても気のつく仕事のできる女性だ、 頭の回転も速く、落ち着いており、いつも微笑みを絶やさないので 男性社員の人気も高い。 人気が高いのは仕事ぶりや性格だけではなく、 どうやら、彼女の男喰いの裏面にも人気があるようだ。 特定の男性は作らず、きっかけさえあれば、積極的に いつでも関係を持つらしい。 年齢は峰より1歳下の29歳、 身長は165から170センチくらい、 すこし痩せてはいるもののアンニュイな雰囲気と 肩まで伸ばした髪を後ろでまとめた後ろ姿は 我が社の見返り美人といったところか。 痩せているとはいえ、首から肩、胸のふくらみ、腰からかかとにかけての 曲線は女性特有の色気を発散しており、ひとたび男を喰う際は 髪をなびかせて、白蛇の化身のような、艶めかしさでもって、男をとらえ、 存分に味わうのだろう。 彼女の男喰いは社内の男も例外ではなく彼女の毒牙にかかり、 彼女にハマッテしまった者は後を絶たない。 本来であれば社内風紀が乱れるので、粛正をしてもらいたいところだが、 彼女が原因で社内にトラブルが生まれることはなく、 むしろ平静が保たれているといった状態だ。 それは彼女が社内でなくてはならない有能な社員で、 人脈も広く、トラブルが未然に防げた事例が 多々あるからである。 ときには、商談相手と関係を持ち、結果、 我が社の有利に商談を導いてくれることも・・・ (趣味も兼ねていますから。) あっけらかんと冗談を受け流すように男性遍歴を否定しない彼女は、 男の扱いに手慣れており、関係を持った男はその後 彼女のいいなりになってしまうらしい。 部長と飲みにいったとき 「斉藤薫とは寝るな。 彼女のいいなりになってやりにくくなるぞ、最近T専務がご執心でもあるしな。」 峰は釘をさされた。 峰はT専務に敵対するB専務派である。 独身の峰には酷な話である。 いささか危険をはらんだ女性とはいえ、 仕事では申し分ない。 出世を望む峰には必要な戦力である。 プライベートでは接点をまたないようにはしているものの、 仕事においては積極的に使うことにした。 峰が都合のつかないときは、彼女が代理を務めることもある。 ( O商事か・・気が進まないな。) 「聞いていないな、アポなしじゃないか。」 「先方には失礼かもしれないが、君一人で応対してくれないか。」 斉藤薫は更に声をひそめ、峰の耳元に口をよせると 「こちらで、なにか行き違いがあったようです。」 「トラブルか?」 「まだわかりませんが、課長に直接お話したいそうです。 一緒に会っていただけませんか。」 O商事は前任者が取引を開設した大手の卸問屋で、 かなりの品目について原価の値上げ要請があり、 峰が担当を引き継いで、しばらくして取引停止に近い状態になった会社である。 この件に関しては前回、営業の女性と話はすんだはずである。 気の進まない峰に斉藤薫は追い打ちをかけるように、 「今回は営業の方と、その部長がお二人でお見えになっているそうです。」 (部長?) (今回部長同伴ということは、なにか大事なのか。 それともこちらで伝票の処理に手違いでも。 大したことにならなければいいのだが、もう、別の取引先に決まっているのだ。 どんな話になるのか、めんどうだな。) 「うーーん、では、2階の商談室にご案内してくれ。後から行く。」

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