甘美なる毒の薫り。 斉藤薫が席をはずしてしばらくすると、 須藤かんな、谷玲子は先ほどまでの冷徹な態度を一変させ、 だしそびれていた、といって、近くのケーキ屋で買ってきた、 ケーキの箱をテーブルに広げた。 なかには白いチーズケーキが入っており、 谷玲子が商談室廊下にある自販機でコーヒーを3人分買ってきた。 チーズケーキとコーヒーを味わいながらしばらくたわいもない 話を須藤カンナと谷玲子がふってきた。 二人ともよく笑い、先ほどの冷徹な商談の進め方は嘘のようである。 始めは憮然として腕を組んだまま緊張を崩さなかった峰ではあったが、 そのうち、二人の女性特有の魅力に緊張を揉みほぐされてしまった。 今はテーブルに両手をあずけ、手は軽く指を組んだ姿勢で 二人の美女と会話を楽しんでいた。 そして、だんだん、やわらかくされる心とは反比例して 一カ所だけがずきずきと緊張してゆくのだった。 峰は前のめりの姿勢でテーブルの上で両手の指をもじもじと組んでいた。 (この姿勢ををかえられないな。) (しかし、こうして商談抜きで話していると、谷玲子も須藤カンナも 話し上手な飽きさせない女性達だ。見た目以上に男を魅了してやまない、 ホステスをさせたら、すぐに指名がついてNo1になれるだろう。) 峰は斉藤薫が部長を伴って戻ってきたときに再開する今回の 商談について最良の策を模索したいところだが、 二人は常にどちらかが、話題を提供し、考える暇を与えなかった。 しかも二人の雰囲気に今や完全に飲まれてしまっており、 二人の美女は、この商談の結果とは関係なく、 今度は外で飲みながら 話をしたくなってきた。という。 峰もそう願いたいところだった。 更に数十分たったころには、向かいに座った二人の女性の指先や リラックスして組んだしなやかな脚にみとれていた。 二人とも商談室の合皮張りの黒いソファーに 深く座っており、向かいに座っている峰からは ちょうど目線の先に二人の組んだ足があり、 脚か、彼女たちの蠱惑的な笑顔か、 目のやり場は二つに一つしかなかった。 たまらない肢体の持ち主でそれぞれ個性的だった。 時々ゆっくりと組み替えるスカートに包まれた両脚の間の暗がりから 黒っぽい光沢のある下着が誘っているようにチラッと見える。 突然、峰は誘惑のビームを脳髄に放射されたような衝撃に、 男根はガツンと刺激を感じた。 (う?どうしたんだ、なんだか頭がボーっとしてきた・・・ ) 呼吸が浅くなり、心臓の鼓動がドキドキと速くなってきている。 峰は頭の中をぐるぐると須藤カンナ、谷玲子の脚や胸、両足の奥、唇、指 がいっぱいに溢れ、二人の声が頭の中に直接響いてくるような 奇妙な高揚感に全身を包まれた。 須藤カンナはすっかりくつろいだ様子で、 峰のそんな様子を時折 涼しげな目で観察していた。 須藤カンナは 頃合いやよし、とばかりに、 にんまりと唇の端をつりあげると、 優しく囁くような低い声で、 「課長さん・・」 (ん?) 平静を装うと必死に気力をふり絞る峰を おかしそうに見つめながら、 小首を傾げて、髪を軽く指ですきながら、 「いろいろ大変でしょうけど、私たちも仕事ですから・・」 (うん・・・) そういいながら、須藤カンナはテーブルにゆっくりと身を乗り出し、 両手を唇の前で祈るように合わせた。 黒いスーツの胸元に光沢のあるブラウスの胸元がみえ、 カンナが身を乗り出して唇の前で両手を合わせることにより、 より、柔らかそうな、バストが強調される。 と同時に、この女性特有の香水の匂いが峰の嗅覚を覆い尽くした。 峰はどこをみていいかわからずカンナの香水に軽いめまいを感じた。 ソファーにすわったままの谷玲子は 妖しく微笑しながら、 峰に熱い視線を注ぎながら、シナをつくって、 ゆっくり脚を組み替えた。 「わかっていただけますかしら。」 テーブルの上に指を組んでいる峰の両手にふわりと 包みこむように暖かいカンナの両手がおろされた。 (あ・・・) 「仕事の為に時には手段を選ばないときってありますでしょう?」 (うん、・・) カンナの指が峰の組んだ指の間をくすぐるように ゆっくりと愛撫する動きを始めた。 (あ・・・あ、あ・・) 峰は指の力が抜け、指から腕、肩へ血管のなかを快感が ミミズのようにゾクゾクとくねりながらゆっくり下半身に 向かって、進んでくるうような感触に抗えず、 カンナの愛撫にされるまま身動きができなかった。 「私たち、個人的にはこんな形で契約をとりたくないんです。」と、カンナ。 「そうです。もっと違った方法で、ねぇ、部長。」 「たとえばぁ・・」と、 谷玲子は拗ねたように唇をつきだし、 ソファーにすわったままで片足の膝を両手で抱え じっと視線を送っている。峰の座っている場所からは少し斜め前に座っているので、艶めかしい艶を放つ太股はヒップまで見えそうだが、 横向きに近い角度なのでパンティは見えない。それをわかってて、 谷玲子は意地悪な笑みを浮かべながら、ずり上がったスカートの裾を 指先で弄んでいる。少し抱えた脚を開くそぶりをみせるが、閉じたままである。 峰は正面の須藤カンナと谷玲子を交互にみやるが そのうち自分の意志とは無関係に目が二人を交互に追い求め、 目が回ってしまいそうだった。 「ふふふ、課長さん・・・」谷玲子は峰の視線を受けると、 何度もうっとりと両目を閉じて、 シグナルを送ってくる。 それは、 (フフ、いったでしょう・・予告通り、今度こそ堕としてあげるわ) そうテレパシーを峰に送っているようでもあった。 カンナは谷玲子の仕草に気付くと、 「ふふ、谷さんすっかりくつろいで・・・ まだよ、まだまだ商談の途中よ。課長さんの前で失礼でしょう。 ふふ、課長さん気にしないでくださいね。 この子、課長さんがオキニみたいで、ふふ、 20代の女の子ってせっかちですよね。 (ううう、何を企んでいいいいるんだ、この状況はわわまず・・い、) カンナの指が峰の手のひらから袖のボタンをはずし、 腕の内側へと指を潜り込ませ、爪をかすかにあてながら愛撫する。 (気持ちいいいい・・・。)峰の頭の中が白く霞みがかかったようになる。 カンナの声が頭の中に響く。 「課長さんは今、仕事の為にここでがんばってらっしゃるのでしょう。」 (は、はい) 毎日、毎日緊張の連続かしら。 それとも毎日に退屈していらしゃる? たまには羽目をはずして心も肉体も 解放してあげないと、身体も心も病気になって しまいますわ。 (う、、は、い) 峰は香水の匂いとカンナの指の愛撫、目の前の艶めかしい 唇と声に、味覚を除く全ての感覚を支配されつつあった。 もはや完全にカンナの毒にあたったようである。 峰の腕の内側を這っていた白い指は 再び峰の弛緩した手のひらに降りてくると、 今度は曲げた指の関節ですこし強く、グイグイと揉み始めた。 親指と人差し指の間や、手のひらのツボを的確についてくる。 (ううう、効く!) 手にこんなにツボがあることを峰は今初めて知った。 ふふっ、ここ、効きますでしょう? こんなにかたくしこっていらっしゃる・・・ 汗もかいて・・ カンナがツボをついてゆくと、ぐさり、ぐさり、と 痛みを伴った、快感が手から全身に波紋のように拡がり、 手はお湯に浸したように熱をおびてきた。 その熱は峰の男根を甘く刺激した。 カンナは峰の指に白い五本の指を絡め、強く締め付けながら 引っ張るようにしてマッサージを施した。 親指から初めて、人差し指、中指、薬指、小指と 指を引き抜かれるような、指の関節をひっぱられる感触が 新鮮だった。峰の一本の指に須藤カンナの白い指達が それぞれ、別の生き物のように巻き付き、 絶妙の締め付けで絞り込む。 どうですか? きもちいいですか? (あ、あ、あい・・) 須藤カンナの声までも、 峰の頭のなかを這う、指にでもなったように 脳を愛撫していた。 ふふふふ・・ 別の女性の忍び笑いが頭にこだました。 (谷玲子の声だろうか。) カンナの白い指が優しく絡みついてくる最初の瞬間も 自分の指が性器になったような錯覚を覚え、男根が 反応した。 カンナの指が峰の意識をだんだんと手から拡がる快感に集中させ 峰はうっとりとした表情で意識が遠のいているようである。 一本目の指、二本目、三本目、と 順番に移ってゆくに従い、痺れるような快感がジーン、ジィーンと 強くなってくる。 ふふふ・・ 変な気分になってきたんじゃないかしら、 かんじちゃう? いいわよ、 ほら、 こうしてほしいんでしょう もっとして欲しい? もっと? もっと感じたい? わたしの言うこと聞く? この指の虜になりたい? この指にはさからえなくなるのよ。 あなたはいいなり、 そうなりたいのでしょう? この指を心に植え付けてあげる、 忘れられなくしてあげる。 うれしい? ほら、お返事は? もう須藤カンナの声は頭の中に語りかけてくるものの、 低い囁くような声で、朦朧と快感に溺れる峰には何もわからない、 ただ、声をだして反応するだけである。 十本目に達したとき、 快感は射精寸前にまで達し、峰は白目をむいて快感に溺れていた。 峰の両手に一通りマッサージを施すと、カンナの指は名残惜しそうに 峰の手を解放した。 峰はカンナの指の感触がかすかにのこる余韻に浸ってテーブルには 両手をのせたままである。 「はい、お・し・まい。」 その一声はどこかから突然頭の中に響いてきた。 (はっ?) 優しいその声に峰は我に返った。 先ほどのモヤモヤした気持ちも嘘のように晴れている。 谷玲子はくつろいだ感じはそのままだが、キチンと脚を 揃えて座り直していた。表情は おもしろいものを見たように 笑みを浮かべている。 (今のは何だったんだ。わたしは今夢でも見ていたのだろうか、 須藤カンナに手をマッサージされているうちに、 うたた寝をしていたのだろうか、あれは妄想だったのか?) 「課長さんすっきりしました?」傍らで見ていた、谷玲子が ひやかすように声をかけてきた。 カンナはソファに深く座り直しおかしそうに笑みをうかべながら、ペンを白い指で弄びながら、 「わたくし、マッサージが得意なんです。 「課長さん、お疲れの御様子でしたし、お互い張りつめた雰囲気では いい取引になりませんもの。今のは気に入っていただけました?」 峰は意識が朦朧としていたところを二人にみられたので、 ばつが悪そうに「は、はい。すごく・・・」としか、 返事ができなかった。 カンナは満足そうに唇の端をつりあげて 「うれしいわ、気に入っていただけて・・」 谷玲子がすかさず 「うちの部長のマッサージは評判いいんです。 みんなすっきりするってよろこんでいますし、 商談も、とっても和やかになるんです。」 「手だけでこんなに効くとは思いませんでした。」 峰は先ほどの二人による、白昼夢のような光景はなんだったのだろうと いぶかしんだ、 (本当に夢でもみていたのか。 これは知らないうちに相当疲れがたまっているのかもしれない。 一度診てもらったほうがいいかも。) (それにしても、手をマッサージしただけで、 こんなに気分がスッキリするとは知らなかった。) しかし、スッキリした反面、頭の中に何かがひっかかった。 峰は心の中に何かを植えられたような、感触があった。 それは現実とは比べものにならない速さで芽をだし根を張りつつあった。 峰はそれを知らなかった。 (もっとマッサージを受けていればそんなこともなかったのだろうか。) 「次は、本格的なマッサージをお願いしようかな。」 峰は、自分の思わぬ発言にとまどいを感じた。 (あれ?何を言っているんだ?わたしは?言い直さなくては。)と、 訂正する発言を付け加えようとした瞬間、 (これは私の本心だ、これでいい。) といった別の感情が発言を躊躇させ、 峰は会話に隙間を作ってしまった。 戻る 進む