少しも気が晴れなかった。みんないつもの日常に生きていた。
しかし、自分は日常から、大きくかけ離れた世界に引き込まれつつある。
ここには、いられなかった。
どこに行けばいいのか。 誰かにすがりたい。
父は寝たきりの状態でミサトの意のままである。
自分だけ帰ろうとしても、ミサトは放って置いてはくれまい。
ミサトを前にすると、どうにも逆らえない。
美しく整った外見とは、裏腹にとても、気さくで、陽気な女性だ。
そして、そして・・・
そこまで考えて浩一は涙ぐんだ。
ズキズキと堅くいきり立った男根が股間を突き上げていた。
どうにも逆らえない快楽の底なし沼にはまってしまった。
唯一の希望は、看護婦が握っている。
とりあえず、一旦屋敷に戻ってください。
夜中にもう一度ここで落ち合って逃げましょう。
そうだ。浩一はアイの言葉を何度も思い起こしていた。
メイドとの昼食
風は幾分涼しく感じられたが、浩一も、メイドも首筋に汗を浮かべていた。
窓を閉じるために、メイドが窓に立つと、薄い制服は透けて、誘惑者の艶めかしい肉線をくっきりと浮かび上がらせる。
薄く淡い光沢のある、スカート。 浩一はその下の下着を見透かすように目を細めた。
天井の高い食堂の開け放たれた窓は、でっぷりとしたタッセルが、レースのカーテンによりそうように揺れていた。
食堂に入る際、台所の前をちらりと通りがかったが、きれいに片付いていた。
セミの鳴く声は、囂々と館の外、林の中で滝のように響いていた。
もう昼過ぎだった。メイドは何食わぬ顔で浩一に食事をとらせた。
メイドは浩一を食堂のテーブルに座らせると、すぐにエアコンを操作した。
すぐに額に人工的な風が感じられた。既に暑さは治まりを見せいた。
しかし、セミ達の声は相変わらずであった。 窓の向こうからジワジワと響いている。
ウェッジウッドの、カチャカチャと小さく響く食器の音に、 メイドのスタスタと歩く歩調が、調和を奏でていた。
メイドの黒いシースルーのスカートは、左右非対称で軽やかに優美な流れをみせていた。
さきほど、メイドがエアコンに向かってリモコンを操作する際、脇が透けて黒々とした柔毛がはっきりと見て取れた。
メイドでも人間である。汗もかけば、衣服にその染みが拡がっていても、脇に毛が生えていても不思議ではない。
だが、浩一には、ミサトが汗をかいて、染みを浮かべていること自体が不自然で、作為的に感じられた。
それは、浩一の興味を翻弄する為に計算尽くでさらけ出しているのではないかと思えた。
浩一はパンをちぎってはほおばり、紅茶ばかり飲み干しては、メイドに注がせていた。
食事の内容は、前菜、スープ、肉料理、パン、おそらくデザート、なぜか暖かい紅茶。
肉料理は、かなりこってりとして、ソースは独特の苦みが感じられた。
しかも、野菜が少なく、パンは焼きたてなのか、中が熱かった。
口に頬張ると、舌を火傷しそうになる。
浩一の好みではなかった。浩一はあまりパンは食べない。朝食ならまだしも、昼間に暖かいパンは初めてだった。
昨日のメニューは申し分なかったが、今回のメニューはまったく口に合わなかった。
悪い味ではないが、どうにも食がすすまない内容にしてあるのだ。
メイドがそばに立って紅茶を注いでくれていると、例の香水の匂いがした。
目が眩むようなメイドの制服。
そして、まぶしい笑み。
浩一は感情を抑えようとして、必死にパンをちぎっていた。
それが、いつのまにか、規則的な動作になっていた。
「さ、さっき台所で知らない人達をみたけど、あれは誰?」
目はミサトの制服の優美な曲線を追いながら、浩一は尋ねた。
メイドは、浩一に目もくれず、トレーからカップを丁寧に浩一の前に出した。
浩一がみたメイドの横顔は、にんまりと笑みを浮かべ、まったく不都合を感じていないようだった。
隠すつもりもないようだし、嘘もつかない。そんな笑みだった。
メイドの制服は昨日より更に肌の露出の高かった。浩一はボンヤリと見とれてしまう。
「知らない人、ですか?」
油断をつくように、ミサトは浩一の目をのぞき込んだ。
綺麗だ。浩一は自分の頭の中で、ミサトの瞳とカチッとつながるような気がした。
瞳から何かを読み取られているというよりは、吸い取られている。
浩一自身を吸い込んでいるような引力を感じさせた。
ミサトが目を細めてくれたので、浩一はかろうじて解放された。
もう少しで、ミサトに何かされたに違いない。
浩一はほんのわずか、視線をずらした。
眉毛。黒く描かれたラインは、強気を表していた。
額に浮かぶ汗。 汚れという感覚ではなく、聖的な美しさを感じた。
頬の丸み、そして、冷たい印象を与える筋の通った鼻。
唇。薄く、そのくせ、肉感的で、艶めかしいルージュで彩られている。
その唇から覗く、ピンクの舌先を見てみたい、ポッカリ開いた口の中を覗いてみたくなる、そして・・・
その中に・・・
そして美しく尖った顎に続くミサトの真っ白な首。 長く柔らかい肌の下に筋肉の流れを感じさせる。
それはまるで、首の長い物の怪を思わせる。
ミサトの首筋に浮かんだ汗は、きらきらとラメのような光沢を放ち、ミサトの動きにサラリと首筋から垂れる。 (あの汗を・・・吸いたい。吸いたいっ!)
今日は金色の細いチェーンを首にかけているようだった。
何かペンダントでもぶらさがっているのだろうか。長めのチェーンは、制服の奥まで続いていた
浩一の視線は導かれるようにメイドの服の透けた胸の谷間に吸い寄せられてゆく。
「応援のハウスキーパーのことでしょう。ここしばらくは、お仕事関係の方々がたくさん来られるので、私一人では」
「ハウス・・・なんて? 仕事関係?」
「ええ、いろいろなかたたちです(いろいろ可愛がってさしあげてますのよ・・・)」ミサトはおおざっぱな返答ですませた。
「父が会うんですか? あの状態で?」メイドは勝手に何かを進めようとしている、浩一はだんだん頭がぼやけてくる中、なんとかメイドを追い詰めようとしていた。
「そ・そんな・・・無理だ・・・」
「(奴隷に・・・完全に虜・・・墜ちてゆく快楽・・・)どうしても決めておきたいことがあるとのことで」舌を噛みそうになりながら喋る浩一に対して、メイドはスラスラと事務的な口調で片付けた。
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