「急ぎの取り決めがあるそうです」その言葉の意味が理解できず、浩一は苦しんだ。
 (ド・ド・ドウイウ意味?どういう意味?わ、わからないよっ!)
 頭の中に会話を理解する余裕がなくなっている。 自分がさっきまで何を言っていたかさえ、忘れそうだった。
 「わ、わぅわ、」(ああ、だめだ・・・頭が変だ!)ミサトは、浩一のぎゅっと握りしめられた拳を冷ややかに見つめていた。

 「何かおっしゃいまして?」冷たい声でだった。
 「う・・・」それに対して浩一はメイドを見上げ、何かを乞うように目で訴えた。
 その目は自分からこっそりと奪い取った何かを返せ、と訴えていた。
 
 「ん〜〜?」メイドは小首を傾げ、片方の眉をつり上げた。
 口元のつり上がった笑みは、企みがうまくいっていることを、意地悪く示していた。
 メイドはゆったりと、テーブルを拭きながら近づいてきた。
 ミサトを覆っている濃厚なフェロモンが浩一の領域を侵す。

 「今、ここでは、ぼっちゃまと、わたくし、二人きり・・・」ミサトの瞳をみていると、頭の中が痺れるような、うっとりとした感覚に犯される。更に声が心を魅了する。
 誘惑者の声は、ベルベットのように滑らかで、心地よい響きを伴っていたかと思えば、深い闇の底から響いてくるような声色を巧みに使い分けて浩一を翻弄する。
 
 「ぼっちゃま・・・(罪深い、変・態・ぼっちゃま・・・)」(え?ツミブカイ?ナ・ナナンテ?)
 ミサトは浩一のそばから、テーブルによりかかって見下ろしてきた。
 むせかえるような、何かが、脳漿を染めてゆく。

 「さ、全部おあがりになってください・・・」ミサトは浩一の前に指を立て、浩一の視線をゆっくりとテーブルのカップに移動させた。
 「まだ残ってます・・・」カップには、なみなみとハーブティが注がれている。
 ハーブティは例のスティックが添えられている。
 
 「さあ・・・(飲んだら楽しくなるわ・・・)」
 「あ・・・うん・・・」浩一は口をつけると、一息に飲み干し、スティックもガリガリとむさぼった。
 それは、毒薬のように、舌に触れると痺れるような感覚があったが、浩一はやけくそだった。

 きた・・・ 浩一は自分の感覚に変化を感じた。
 ジャガード織りのテーブルクロスがぼんやりと光りだした。
 耳が急に遠くなったように、外の音がかすんでゆく。
 トクトクと響いてくるのは、ミサトの足音か、自分の拍動か。
メイドを見ると、向こうも見つめ返していた。

 「メイドと、ぼっちゃまの二人だけ・・・」
 うっとりと、細められた眼差し、艶やかな口紅をした唇。
 「ウウウ・・・」
 チラリとのぞくピンクの舌先が唇の端をチラリとのぞいている。
 いや、そんな下品な仕草などありえない、浩一は自分が幻覚に惑わされている感じにさせられた。
 最初に出会ったとき、淫らな妄想に駆られたのは、ミサトが仕組んだことかもしれない。
 この妖しげな空気、匂い、光、音、言葉、何もかもが仕組まれている。すべてに罠が仕組まれているのだ。

 「主と、その・・・ドレイ(奴隷とは、おまえのことよ・・・)」聞き取れなかった。
 浩一は頭がクラクラとしてきた。ミサトの制服のキラキラとした光沢が目にまぶしい。
 このハーブのせいだ、わかっていても浩一はミサトの言いなりになっていた。

 既に浩一はミサトの術中に墜ちていた。 浩一の欲望を刺激し、男を妄想に溺れさせる巧みな手管によって性的なトランス状態に入っていた。 トクトクと脈打っているのは、胸の奥から響いていくるのではなく、両脚の付け根で解き放ちを渇望している器官からだった。

 「お父様がおっしゃいましたよ・・・」 メイドはそばに立っていた。腰を突きだし、尊大に見下ろしていた。 上からじっと見詰められた。
 浩一は潤んだ目で見上げていた。何かが、どんどん吸い取られてゆく。
 「わたしに、(おまえを差し出すと・・・)おっしゃいましたよ」メイドの声は、どす黒い囁きが添えられていた。 
 「わたしには、そのようにおっしゃられましたが・・・」ミサトが頬に手をそえ、首をかしげた。
 「あ、あ・・・」浩一は、何かドキリと胸をえぐるようなことを言われた気がした。

 会話は無意味だった。ただ、ミサトの声は、浩一を刺激する為だけに存在した。
 
 「(わたしの)ぼっちゃま・・・」ミサトが自信の顔に添えた手は、ゆっくりと、胸、そして、腰に向かって浩一の目を誘導する。
 浩一は、ミサトが突き出している腰から目が離せなくなっていた。
 三方からのなだらかな曲線がカーブを描いていて一点で交わっていた、ちょうど浩一の目の高さにメイドの脚の付け根があった。スカートはテーブルに押しつけられ、ミサトの脚の付け根を浮き彫りにしている。
「フフフ・・・」ミサトは、腰に手を添えたまま、自分の股間を見つめる浩一に、妄想に溺れる時間を与えた。浩一の潤んだ目を凝視する。どんな妄想に溺れるかは、おおよそ見当がついていた。

 (アップ、アップさせてあげるわ・・・)
 ミサトの思惑通り、浩一はミサトの股間に溺れていた。
 その奥から発散されている何かが、男の本能を狂わせてゆく。
 あのスカートの下に触れたい。 あの中に自分自身を突き立てて、かき混ぜてみたい。
 ぐちゃぐちゃにしたい。 
 されたい、なりたい、ぐちゃぐちゃにされたい、おしつぶされてみたい。
どろどろにされたい、もっと、もっと、もっともっと、どろどろに。
 妄想が頭の中一杯に溢れる。 しかし、それでも浩一の妄想は止まらない。
 ミサトのスカートのひだをたどり、絹に包まれたような脚、そのつま先を包む上履きにたどりついた。 

 もう、全てが我慢の限界だった。
 股間のシンボルがテーブルに届くほど突きあがり、それはミサトの声に痺れ、鈴口の先から熱い汁が噴き出してきた。
 股間がベタベタと蒸れている。早く何かをしたくてウズウズしていた。

 浩一の目に映るメイドの脚は、右に左に重心をかけて、ユラユラとスカートの裾を揺らしている。
 つま先をそらしたり、丸めたりと繰り返す。浩一のゆがんだ劣情を挑発するためだ。
 薄い生地で足を包む上履きは、メイドの指の表情をくっきり形作っていた。
 トゥーシューズのような上履きは、歩く為ではなく、浩一を刺激する為だけの動きを繰り返している。

 「そのように・・・申しつけたはず・・・」ミサトも自分のつま先をみながら、浩一が魅入っているのをおかしそうに笑った。
 忘れようがない。
 昨日はその足で、テーブルの下でメイドにイカされたのだ。
 ゾクゾクするような異様な興奮を覚えた。
 (ドロドロしてきたでしょう?)
 メイドの目が、頭の中にそう囁いているようだった。

 「あ?」視界に白い腕が左右に広がったかと思うと、顔を優しい風が撫でてゆく。
 「ふ〜ん?」蛇のようにしなやかなミサトの手が、浩一の顔を撫でてゆく。
 浩一はミサトの手の動きにあわせて、ユラユラと頭を動かして、愛撫を味わっていた。
 
 「さあ・・・真っ白になりなさい・・・」ミサトは暗示の言葉を口にした。
 ミサトは意味深な笑みを浮かべ、浩一の顔を愛撫する。
 
 「ほぉら、深呼吸して・・・」
 浩一のまぶたに触れ、やさしく、視界を閉ざす。

 「そーう、メイドの呼吸にあわせて・・・」
 目を閉じると、ミサトの息づかいと、自分の心臓の鼓動、息づかい、

 「深〜く、深ァァァァ〜く、息をして・・・」
 それ以外は何も聞こえなくなった。

 「深ァァ〜〜〜〜く沈んで逝く・・・」
 ミサトの息づかいが生々しく頭の中に響く。

 「ほ〜ら、とても、とぉ〜っても、いい気持ち・・・」ミサトが忍び笑いを漏らすと、
 浩一の中でも別の何かが漏れ出した。
 その場所は、体の中心、心臓のように、ドクドクと脈打っていた。

 ミサトの指が浩一の口の中に侵入してくる。
 口の中をミサトの指が愛撫する。歯茎をなぞり、舌に戯れる。
 いや、かき混ぜられたい。あの中で、溶かされたっていい、ああ、あの中。

 (とけてゆく・・・)甘くほろ苦い声だった。
 頭の中が、トロトロに溶けてゆく。
 
 蕩けて、ほら、トロトロに溶溶けてゆゆゆくくくく
 ほほぉぉぉおらららぁぁぁぁぁぁ
 頭の中でミサトのビブラートをかけた声が心地よく精神をほぐしてゆく。
 「ウ・・・・」



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メイド 魔性の快楽地獄