転 男転がし
メイドは新聞を読む浩一の眼差しをじっと観察していた。
頃合いをはかってメイドは浩一に切り出した。
「ぼっちゃま・・・」
浩一は返事をしない。その目はかすかに潤み、しきりに瞬きをしている。目は一心に一点を見つめたまま動かない。
(また何か無駄なことを考えているみたいね〜 じきにそれもできなくなるのに・・・フフフ、血の巡りが悪くなっているはずよ。アソコに集まってクラクラしてるんじゃないかしら・・・ )
(いいわ。煽ってあ・げ・る・・・)
メイドは唇をペロリと湿らせると、浩一がドキリとするような声をかけてやる。
「わたくしも合い席してもよろしいでしょうか? 」
メイドが甘えた声で言葉を継ぐと、浩一は目を一回ゆっくりと閉じてから、吐息まじりの返事をし、合い席を受け付けた。
メイドはいそいそと自分の朝食を運んでくると、浩一の真向かいに席をとった。 浩一はチラリと視線をあわせたが、そのまま新聞に目を戻した。
「旦那様のお世話を先に済ませて朝食にしようと思いまして・・・」浩一が聞いていようが、いまいが、お構いなしにメイドはひとりごちた。
メイドが奉公先の家族と同席して食事をとることはまずない。
まして、テーブルをはさんで真向かいに席をとることはあり得ない。
メイドの立場から、それはタブーであることをミサトは充分理解しているはずであるが、今、メイドはタブーを跨いだ。
普段の浩一であれば、絶対にさせないだろう。
しかし、浩一は受け付けてしまった。自分の中のもう一人の自分がそれを望んだかのように、受け付けてしまった。
昨夜のこともあるし、今日の所は大目にみよう。
投げやりに自分を納得させると浩一は新聞に目を戻し、メイドのことは考えないように努めた。
ざっと新聞に目を通していた浩一だが、今朝はなにか落ち着かない。新聞の文字が理解できない記号の羅列に見えてくる。
一生懸命に意識を集中しても、読んた先から内容を忘れてしまうので同じ所を何度も繰り返し読んでいる。
いつもなら、数分で読み終えてしまうはずの朝刊が今日は読んでいて苦痛になってくる。地方紙だから、というわけでもない。
メイドと向かい合って食事をとっているせいだろうか。
読めなくなると意識は自然に向かいに座っているメイドの事ばかり気になってきた。
(あれ? いつのまにかメイドが向かいに座っている・・・ )
浩一はなぜメイドが自分の向かいに座っているのかさえ、想い出せなくなっていた。
もっとメイドを見ていたい。そう考え始めていた。
ピンクの口紅をした唇がやけにまぶしく見える。
肌も白くキラキラと輝いているようにツヤツヤとしていて、
全身でその感触を感じたくてムラムラとしてくる。
父が心配だったが、実際に会ってみてそれほど具合が悪いようでもないようだ。
今までが元気すぎたのかもしれない。若い頃から肉体を酷使し、精力的に仕事に打ち込んできたのだから、年をとってあちこち悪いところがでてくるのだろう。
悪い人でもなさそうだし、もう少し時間をおいて様子を見てみよう。 こんな綺麗な人だから、悪い人ではないさ。
昨夜のことは忘れよう。 メイドもなかったことにしてくれると言ってくれたっけ。浩一は自分に言い聞かせた。
これ以上の詮索はやめよう。 そんなことより・・・
浩一はチラリとメイドを盗み見た。
メイドは向かいの席から意味深は笑みで浩一をじっと見つめ返してくる。
鳶色の瞳は、夏の強い光を受けて珈琲ブラウンに透き通っている。
一瞬見とれて、すぐさま目をそらした浩一だが、脳裏に焼き付いた瞳を思い返すと股間に暖かいお湯をかけられたような感覚がわき上がった。 それは昨晩のメイドによるお漏らしを味あわされた感覚をリアルに想い出させるのだった。
浩一はメイドの性的な魅力だけを考えたくて、冷静に分析すべき問題をさっさと片づけてしまった。考えることを見失うことで浩一の性的な欲求は加速しだした。
頭がボンヤリしているうちに浩一は再び、メイドにムラムラと欲情し始めていたのだ。
股間のシンボルは完全にズボンを突き上げている。
扱いてスッキリできれば、どんなに気持ちいいだろう。
新聞など見ていたくはないが、どうふるまえばいいのか分からなくなっていた。
同じ姿勢をとっているのが苦痛になってきたが、メイドがじっとこちらを見ている。
メイドは溜まったら、またスッキリさせてあげる、と言っていた。
浩一は今、スッキリしたくてたまらなかった。
しかし、浩一がメイドにその気持ちを伝えるには昨夜の恥ずかしい痴態をもう一度再現することになる。
あの羞恥にまみれた猥褻な奉仕をもう一度受けたいが、何事もなかったようにふるまうメイドに朝からそれを要求するのはさすがにためらわれた。
食堂でテーブルをはさんで若い男と、そのメイドが向き合って座っている。男の方は斜めを向いて新聞に見入っている。
浩一はとりすましているが、その内は淫らな欲望とその期待に苛まれ、頭の中はメイドの肉体で一杯だった。
外は蝉の合唱が聞こえ、冷たい空気をはき出しているエアコンがかすかなうなりを上げ続けていた。
食器の動く音、それ以外何も聞こえない沈黙の時間がゆっくりと流れてゆく。