転 男転がし

「ぼっちゃま? 」いきなり甘い声でメイドが間合いを詰めてきた。
 「? 」ピクリと浩一が反応したが、新聞に目を落としたまま固まっていた。

 「昨夜のこと、気にしてらっしゃる? 」独り言のように浩一を見ないで食事を続けながら尋ねてきた。浩一の心臓がドキドキを早くなる。

 「・・・・・・」何と返答を返せばいいのか分からない。
 気にしていないと答えれば、それっきりかもしれない。
 昨夜の事はメイドと若い男の一時の戯れで終わるかもしれない。 メイドの更に踏み込んだ言葉が欲しくて、浩一はそのまま返事をしないことにしてみた。

 メイドは何も言わなかった。本当に独り言のようだった。
 それとも、浩一の態度に不満だったのかもしれない。
 チラリと流し目をくれる気配がすると、そのままメイドは食事を続けた。

 今の態度はまずかったかな、と浩一が思い始めた頃、テーブルの下で小さくパタンと音が聞こえた。
 何かが床に落ちる音。浩一がメイドをみるが、知らぬ顔で紅茶を飲んでいる。

 と、浩一の足下に何かが動く気配がした。
 メイドの足が当たっているのだろう、向かい合わせだからありえる。が、すぐにその足が故意に当たっている、触れてきたのだと、理解した。
 女の足が浩一の足に触れ、妖しい動きを始めたのだ。
 
 テーブルの下でメイドのつま先が浩一のズボンの裾をひっかけ、
ズリあげてゆく、ナイロンのストッキングに包まれた足の側面で、
くるぶしから、ふくらはぎにかけてザラザラと優しくくすぐってくる。
 その感触はなんとも新鮮で淫らな妄想を刺激してくる。
メイドは浩一のそんな心情を見透かすようにちらっと目をあわせた。
 浩一はテーブルの下が気になる。メイドはわざとやっている・・・
 浩一がテーブルの下を見るには膝にかかるテーブルクロスをめくって覗きこむ必要がある。浩一の対面に位置するメイドは眉一つ動かさない。
 そしらぬ顔で食事を続けている。
 ふくらはぎを妖しい感触が這い上がってくる。
 「ん・・・」
 浩一がピクリ、と反応して口を開くのを、メイドは絶妙のタイミングで遮った。
 「ぼっちゃま・・・」
 メイドは微笑をたたえながら浩一をみやり、ブイサインにした指先を両足のつもりで、テーブル上に即席の妖精をこしらえ、トコトコと歩かせて、ゆで卵に指先を運ぶと、皿の上でクルクルと弄びだした。
 「え・・・」
 「テーブルの下になにかいるみたいですね」
 その指先は昨晩、浩一を夢のような快楽に導いたときのように、白くしなやかな触手のように卵の殻をなぞってゆく。
 「? 」
 テーブルの下ではメイドの脚が浩一の反応を楽しむように
 つま先で撫で続ける。
 「気になりますか? 」
 「え、う、うん」
 メイドは皿の上に長い睫毛を伏せると、コロコロと転がるゆでた卵に手のひらをかぶせ、じわじわ転がしつつ、皿に押しつけて殻をつぶしてゆく。 
 心が卵になったような錯覚に陥ってゆく。
 ビシビシと殻にひびが走ってゆく、メイドの手が浩一の心の殻をゆっくり、じわじわとはぎ取ってゆく。

 ミサトが卵をつまみ殻をむいてゆくと、光沢のある白いタンパク質がむき出しになった。
 メイドはチラリと浩一に視線を送ると、つるつるとしたゆでた卵を口元にはこび、上品な唇でその先端を含んだ。
 小さくかじると、そそ、と半熟の鮮やかな黄身がのぞく。
 その黄身をとがらせた舌先が、スッとすくった。
 チュッとかすかな音とともにねっとりとした黄身がメイドの
唇にとりこまれてゆく・・・黄色と赤い口紅。

 赤と黄色の組み合わせは配色としては人に嫌悪感をもたらすことがあるという。イタリアの或ホラー映画ではあえてその組み合わせを多用し、観客に強いインパクトを与え、感情をその映像に引き込んでしまう。
 この映画をそのまま見続けていると、嫌悪感が性的な興奮に巧みにすり替えられ、観客が快感を感じるように誘導し、洗脳してゆく。

 浩一の心の中に、唇、舌、指先、黄色、白、赤、と、新しい性的な興奮を刺激する条件が擦り込まれていく。
 それらは、気付かないまま、潜在意識の奥深い岩盤に深く、刻まれるように書き込まれてゆく・・・

 艶やかな口紅のうっすらとのこる卵とメイドの唇に浩一の視線は釘付けになった。

 「何かいるわ・・・テーブルの下に・・・」
 「えっ? 何か? 」
 浩一はなんとかとぼけようとしたが、返答につまった。
 「確かめてごらんになっては?・・・」
 「え、ミサトさんの足があたってるのかと・・・」
 「そうですか? 」
 すっと、浩一の足から妖しい感触が離れた。
 浩一はメイドの胸中をうかがい知れず、しかし、ふくらみ始めた淫らな期待を抱きつつ、メイドの言葉に従った。

 椅子をずらすと、テーブルの下を覗き込んだ。
 テーブルの下は何もいるはずがない。向こう側に組んだメイドの脚がみえるだけである。ザラザラと光沢のあるナイロンストッキングに包まれた艶めかしい脚線美がみてとれた。浩一の感じた通り、メイドは上履きを脱いで刺激していたようだ。
 脱いだ上履きを組んだ脚のつま先にひっかけて、ユラユラと揺らしている。
 ユラユラと揺れている上履きが浩一の目を引きつけ淫らな妄想に駆り立ててゆく。

 浩一がその光景をしっかりと目に焼き付けてから、頭を起こそうとした刹那、メイドは組んだ脚をゆっくりと左右に開いて組みかえた。
 「あっ」
 何秒かかったのだろう。焦らすようにゆっくりと動くスカート奥には濃い紫か、青のパンティが見てとれた。匂い立つような淫らなパンティがストッキング越しに見えた。

 「あ! 」
 「ぼっちゃま? 」テーブルの上からメイドの声がする。
 メイドの手がテーブルの下に伸びてきてスカートの裾を直している。
 メイドの大胆な光景に浩一は頭がぼんやりと熱くなりながら、テーブルの下から身を起こした。顔が熱い、きっと赤面しているだろう。
 メイドは向かいでおかしそうに含み笑いをしている。
 「顔が赤いです・・・」からかってるのか。年上だと思って・・・
 「なにか、見えました? 」
 「う、うん、かがんだからね。え、い、いや、な、何もいないけど・・・」

 メイドは楽しそうに顔を反らして笑みを浮かべている。
「そう? かし・ら・・・」
 そういってミサトは唇によせた卵越しに浩一に悩ましい眼差しをなげてきた。
 「何も見えなかったんですか? 」
 唇を少しすぼめ、再びゆっくりと卵を口に含む。メイドの柔らかそうな唇が卵に押しつけられ、淫靡に歪む。勃起したシンボルの先を含むようにモグモグと吸い付く。前歯を軽く立てて、そっと、一口ほおばると、唇についた黄身をねっとりと舌をつかってねぶってみせる。 そして指をちゅっと含んでみせた。
 その光景にワナワナと魅入られた浩一にミサトがうっすらと目を細め目だけで笑ってみせる。
(ああ、扱かれたい。スッキリしたいよ)
 「気のせい、だったのか・し・ら〜〜」
 ミサトが体をずらして、椅子に沈んでゆく。
 再び向かいのミサトから妖しい感触が浩一のズボンの裾から、ふくらはぎ、へと這い上がってきた。

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メイド 魔性の快楽地獄