転 男転がし


 「あの、」

 発情させられた浩一の頭の中に突然、聞き慣れない声が割り込んできた。 若い女の声である。
 「よろしいですか? 」
 食堂の入り口に近いところに一人の若い女性が立っていた。
 薄いミントグリーンの看護婦姿の女性は無表情に尋ねてきた。
 身長はミサトよりも小柄で華奢な体格だが、長い手足と細いウェストが何とも繊細で、牝鹿を思わせる肢体である。
 
 メイドは邪魔が入ったのを、特に気にするでもなく、紅茶を優雅に一口すすると、その女性に愛想よく声をかけた。

 「あら、藤崎さん、どうでした?」
 メイドは体を椅子に深く沈ませた格好で、上半身を精一杯伸ばして看護婦に首をひねった。
 浩一も表情を読まれないように、顔を新聞にふせて、看護婦の視線から我が身の痴態をかばった。
 浩一とメイドが座る食卓は黄色いチェックのテーブルクロスがかけられており、食堂の入り口に近いところ位置する看護婦からは、テーブルの二人の下半身の淫らな秘め事は死角なっているはずである。
 それ以上近づかないでくれ、浩一は目をつぶって念じた。
 藤崎と呼ばれた看護婦は居合わせた浩一に軽く会釈しながら、二人の只ならぬ空気に、何かを感じ取ったようである。動揺を隠せないでいる。

 「あの、特に容態に変化もないので、お薬だけお出しするようにと言われています」
 清楚な若い看護婦はテーブルクロスの影でメイドの脚が何をしているか想像もしないだろう。

 「そう、安心しましたわ。ね?浩一さん? 」
 メイドが浩一の内股をナイロンに包まれた爪で引っ掻くようにツンツンしながら、ニッコリと笑う。
 浩一は突然、予期しない邪魔が入ったことに心臓が止まるほど驚いていた。動揺しているのはこの、若い看護婦以上だろう。
 羞恥と焦燥に顔が、炙られたように熱く、ヒリヒリとする。

 若い女? 看護婦? 藤崎? いつからこの屋敷にいたのか?
 父の容態? 医者にかかっているのか? 悪いのか?
 突然、降ってわいた疑問に、とろけそうになっていた脳を必死に働かせながら浩一は質問をしようと口をパクパクさせた。
 メイドがそれを受けて、浩一に事の次第を説明してやった。
 
 昨夜の父の様子に動揺した浩一をおもんばかって、メイドは朝一番に病院に往診の依頼をだしたという。
 父が多額の寄付をし、懇意にしているこの病院からすぐに医者と、この看護婦がやって来た、とういことらしい。

 メイドの紹介で簡単な自己紹介が交わされると、浩一は改めてこの若い看護婦を見た。

 テレビで見かける売り出し中のアイドルのように若い肌がまぶしく、華奢な割に丸く膨らんだ胸が女の色香を匂い立たせていた。
 唇はメイドと対照的に厚く、周りのただならぬ空気に堅く引き結ばれていた。艶やかな髪は後ろに堅くまとめられ、気にならない程度ではあるが、染めているようだ。
 年は二十歳そこそこだろう。化粧気のない顔は無表情を装ってはいるが、笑えばきっと、花が咲いたように明るく純粋な笑顔になるに違いない。

 メイドが一七〇センチ以上あるのに対し、一六〇センチ弱、体格もメイドと対照的で、メイドはどちらかと言えば、骨太で、エアロビクス選手のような筋肉を女性特有の脂肪で覆ったような成熟した色気があるが、この看護婦は骨が細く、脂もあまりついていないので、首が長く、肩、胸、ヒップの張り出し具合がかえって強調されるのに加え、ウエストが細いので、フアッションモデルのような印象である。
 まるで、看護婦の服を着せられた、精巧に作られた人形のようである。

 人形でないのは、夏の暑いさなか、エアコンの効いていない廊下を行き来していたのか、看護婦のこめかみは汗ばみ、頬がほんのりと汗で光っている為で、汗が若い生身の女の艶やかさを匂い立たせ、浩一の性的本能を扇情してやまない。

 足下は白い薄いストッキングに包まれた長い足にギンガムチェックのスリッパ履きである。
 メイドと違い、足の形は想像するしかないが、メイドと同じく、柔らかく、汗に湿っているのかもしれない。
 あのスリッパの匂いを嗅いでみたい・・・
 浩一は看護婦のスリッパに異常な興奮を覚えた。それはいつのまにか芽生えた、倒錯的な願望であった。

 「あの、先生どちらにおられるのかご存じないでしょうか」足下にじっと視線を向ける浩一に、居心地の悪くなったように目を斜め下に逸らしたまま看護婦は言葉を口にした。

 「あら、先程一緒だったけど、旦那様のお部屋にいらっしゃらないの? 」

 「変ねぇ、私たちがここにいるのを知らずに迷子になったかしら。 困った先生ねぇ、フフフ」
 悪魔のような意味深な流し目を浩一にくれると、残酷な笑みを漏らしながら、メイドのつまさきは獲物に絡みつく。白い薄膜に包まれた脚が、蛇のように浩一の勃起したシンボルのすぐそこまで迫っている。
 この状況にあって尚、ザラリとしたストッキングに包まれたつま先は浩一の内股をゆっくりと徘徊しているのだ。
 ズボンの生地越しであれ、妖しいその衣擦れの感触はシンボルにビンビンと伝わってくる。
 つま先は実に巧みに脚の性感帯を刺激してくる。
 ふくらはぎ、膝、くるぶし、足の甲、軽く足を踏みつけられるのも気持ちいい。
 メイドは昨夜の淫らなマッサージの経験から、浩一の性感帯をキチンと把握しているのだ。

 「先生を捜してきます」
 それを知らない看護婦はそう言い残して食堂を出ていってしまった。

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メイド 魔性の快楽地獄