承 挑発

 
 この田舎の旧和風の瓦葺きの日本建築が並ぶ住宅街から遠く離れ、敷地内に入って更に車で走るとようやく、門が見えてきた。
 邸は浩一の父が財力にものをいわせ、ゴルフ場が収まるほどの土地に英国から取り寄せたエクステリアをふんだんに使い、邸自体は著名な建築家に設計を依頼した西洋館のようなたたずまいだった。車が門にさしかかると門は自動で開く。門に近い守衛室には知らない警備員が詰めていた。車はそのまま、滑るようにエントランスに横付けされた。

 見渡したところ、庭園は荒れていない。
 最近、庭師が手をくわえたようにきちんとしている。
 しかし、誰もいない。父は出迎えに来ない。
 メイドの言う通り邸内は父と二人きりのようだ。
 邸は2階立てで、部屋の数は18,内装にも金をかけ、調度品も高価な物ばかりだ。そんな邸内にたった二人で・・・
 浩一がここで暮らしていたころは、警備会社から派遣された警備員が3人、家政婦が二人、庭師が二人、父の秘書、それにヘリポートにはいつもヘリコプターがあり、駐車場に止められた車は、誰かの来訪を示していた。それが今はどうだろう。ヘリポートは空いており、駐車場は父の所有する車だけ。
空気が活気を失い、セミの鳴き声だけが、薄暗くなった敷地内にワンワンと響いている。外観はそのままだが、人の生活の匂いはまったくしない。人間の活動がまったく感じられないのだ。 
 自分が父に会わない間に、なにかが有り、ここは変わってしまった。浩一はいよいよ、父の様子が心配になった。
 浩一は不安な足取りで玄関の扉に向かう。
その後に浩一の荷物を提げたメイドがスタスタと続く・・・

 邸に入って始めに気が付いたのはその空気だ。何か記憶にない違う匂いがした。ここへ向かう車の中でも感じたメイドの匂いとは違う、外国のお香のようなにおい。かすかにではあるが・・・
それは良い匂いではあるが、それよりも何か物足りない気分にさせられる不思議な匂いである。

 ふと人の気配に目をやると、見覚えのある初老の男がいた。
父は玄関ホールの2階から階段を降りてくるところだった・・・

 父にあって最初に感じたのは、さほど具合が悪い訳ではないということであった。自宅で静養中ということであったが、医者にかかっている様子はみられなかった。何か薬を飲んでいるようではあるが、健康食品だと言っていた。疲れやすくなった、といったぐらいで父は仕事を休んだりはしない。それぐらいで何ヶ月も仕事を休むのは、どうにも腑に落ちない。寝たきりではなく、自分で歩き回っているものの、足腰は確かに弱っているようだ。
 何よりも気がかりなのは、父の精神状態のほうだった。
 目に覇気がなく、無気力になったような気がする。

 母がなくなってから今になって人生に疲れたのだろうか、 浩一と話す口調も穏やかで何をいっても反論しない。

 しばらくして、いよいよ、父が変であることを確信した。
 父は何かが、気になってしかたがなく、時々上の空になっている。
 目や手はそわそわして、落ち着きがない。
 そのうち、少し疲れたので先に休む、と言い出し、「夕食は先に済ませたので、おまえの食事はメイドに別に用意させる」と、言って自室に引っ込んでしまった。

浩一がかつての自分の部屋で着替えを終えたころ、メイドから夕食の用意が出来たと知らせがあった。食堂に赴くと、明るい黄色のテーブルクロスにきちんとサラダ、トンカツ、スープ、ライス、が並べられていて、パンも用意されている。準備はすっかり整っているようだ。自室に早々と引っ込んでしまった、父のことが気がかりではあるが、食堂に入ってすぐにそんな考えは頭の隅に追いやられてしまった。浩一は思わず目を見張った。料理ではなく、目の前のメイドにである。
 
 目の前に立つ美女は浩一の知っているあの、メイド服を身につけていたのである。デザインは夏向けに活動しやすいようにサラッとした薄いサテン地の黒い生地に手や脚を大きく露出させた、半袖のぴったりしたワンピース仕様で、白いエプロンがまぶしい。
 「わたし、この制服が好きなんです。ぼっちゃまもお気に召しまして? 」先ほどのように車を運転したり、買い物に外出する際は私服に着替えるが、屋敷内ではいつもこのような制服を着ているという。

 今日は少し日差しがきつかった。
 都会に比べると遙かにすごしやすいのではあるが、やはり汗は流れる。自分は汗くさいのだろうか・・・ メイドのしっとりと汗ばんだ腕やうなじは、そそられるものがあった。浩一は軽い目眩を感じながら、ぼんやりとメイドの肢体に見入っていた。ふと、女性の汗というのはとても良い匂いなのだと浩一は知った。

 メイドの気遣いでスープは冷たかった。
 食後にアイスクリームも用意してあるという。
 至れり尽くせりである。
 都会での一人暮らしで自炊が長く続くと、このようなもてなしが、
とても新鮮で和むものがある。料理も調理したてで、味のほうも浩一の舌を喜ばしてくれる。加えて、こんな美しいメイドが用意してくれた料理なので、とても幸せな気分である。
毒入りだとしてもいいとさえ思った。

 メイドの肌は透き通るように白くまぶしくみえた。
 出迎えの時はスラックスをはいていたが、
 今は制服に着替えている。
 膝丈のワンピースはメイドの豊満な太股をぴったりと包んでおり、ヒップからふくらはぎに至るラインが艶めかしい。
 「私、料理には自信あるんですよ」
 (ふふふ、男の料理と征服もね)
 こっそりと心のなかでつぶやく声は浩一の耳には届かない。

 浩一はメイドの脚線美に釘付けだ。
 (ふふふ、見てる、見てる・・・ こんなきれいな脚なかなか拝めないでしょう。今にもっと良い物もみられるかもね。楽しみにしてらっしゃい。そのときは、もう、あたしの虜。蜘蛛の巣にかかった哀れな獲物よ。下ごしらえが済んだら、じっくりと手間暇かけておいしく料理してあげる・・・ それから、たっぷり味わいながら食べてあげるからね、ふふふふ・・・ )

 「ぼっちゃまいかがですか? 」
 「わたし、ぼっちゃまのお好みを伺っていなかったもので、もしかしてお口にあわなかったら別にご用意しようかと思うんですが」
メイドが浩一の表情を覗きながら、少し不安気な表情を見せてやると、「い、いいです。お、おいしいです。み、本上さんお料理がお上手なんですね」そういってメイドに精一杯の笑顔をみせ、口に運ぶピッチを早めた。浩一の笑顔に答えるようにメイドは花がほころぶような笑顔を見せる。
 「ありがとうございます、そう言っていただけると、腕によりをかけた甲斐がありましたわ。うれしい」そういってテーブルに両手をついたメイドは上半身を前のめりにして、浩一の顔を覗き込む。
 メイドが前にのめると、浩一の顔を覗き込むメイドの豊かな胸元が大きく揺れ、その存在を浩一に訴えてきた。
 (乳首?)
 黒いサテンの生地を突き上げるメイドの胸はとても柔らかそうで、ぽつんと、小さな突起が浮かんでいた。
 (ふふふ、気になって仕方がないみたいね。ノーブラだって分かったかしら? 見たい? 触りたいでしょうねぇ。楽しみにしてらっしゃい。この胸もつかってあなたを虜にしちゃうのよ)

 浩一はメイドの隙をうかがっては、その二つの突起を盗み見た。 メイドはそれを十分承知の上で見るにまかせた。
 (ふふふ・・・ )
メイドの冷たい笑みは浩一には見えない。

 
 
戻る  進む2002年1月3日 更新

メイド 魔性の快楽地獄