転 男転がし
「デザートになさいます? 」
冷や麦を平らげた浩一の前に、メイドがシャーベットを出した。
浩一の視線を受けて、目だけで笑うと、クルリとキッチンの方へさがる。
そのまま、シンクに立って、洗い物を片づけ始めた。
冷たいシャーベットは、歯にしみた。
視線を感じ、見やると、メイドが見ていた。
流し目を送っていた。 例の鳶色の瞳で。
浩一と視線を交わしたまま、キッチンのメイドは、エプロンをはずし、ブラウスと、スカートだけになった。
汗で額に貼りついた髪を、指で優雅にはらい、浩一に流し目を送ってくる。
胸のボタンを一つずつ解すようにはずし、胸をひらいて手をヒラヒラさせて扇ぐ。
すべて、浩一の視線を引き寄せるために、みられることを意識した、男の欲望に訴えるような仕草だった。
汗に光る胸元がまぶしかった。
突然、窓の外に蝉が飛んできた。 締め切った窓にあたり、ドキリとさせられた。
蝉は狂ったように窓硝子を激しく打った。
蝉に注意を殺がれた浩一の視線の先に、メイドが入ってきた。
冷たい横目で、浩一を見つめながら、窓に立つと背中を向ける。
上体をまっすぐ倒し、ヒップを突き出すように、窓に手を伸ばす。
スカートは、奧が見えてしまうタイプではないが、張りつめた豊満なヒップを男に意識させる役割は、充分に果たしていた。
メイドが黙って、窓を開け、蝉を追っ払おうと、手で払った。
バランスを取って、膝を曲げて、片脚で前にかがむ姿は、今朝の脚責めを思い起こさせる。 柔らかそうな足が罪作りだった。
ゆっくりとした、スローモーションのような動作だった。
蝉は狂っている。
死期が迫って狂乱しているように見えた。
メイドが手で払っても何度も向かってきた。
メイドが肩越しに、チラリと浩一を横目で見た。
浩一は、スプーンを持ったまま、狂乱している蝉にすっかり関心を奪われていた。
建物の向こう、雑木林から蝉の鳴き声が一際高くなり、
スプーンにすくったシャーベットがタラリと溶けた。
不吉なムードになってしまった。
浩一は立ち上がろうと、イスをずらした。
と、その気配に引き金を引かれたように、メイドは流しのフキン手にすると、蝉に叩きつけた。
浩一は、驚いて、その場に固まってしまった。
かんしゃくを起こしたような、乱暴な仕打ちに見えた。
雑木林から聞こえる蝉の合唱は、哀れな仲間に同情するように、低く、小さくなったように感じられた。
蝉はそのまま、他に飛んでイッテしまった
唐突に外の世界が遠ざかってゆくような感覚を覚えた。
大きく溜息をついて、窓を閉めると、メイドは振り返って浩一にニッコリ笑った。
メイドの笑顔を見て、浩一はゾッとさせられた。
メイドの機嫌の悪さが、頂点に達したかと思ったからだ。
「熱いわ」
ボソッ、と、一言つぶやくと、食器を片づけ始めた。
エプロンをはずし、ブラウスの胸は大きく開き、髪が額に貼りついていた。
エアコンが低い音を立てているが、蝉の声に負けていた。
「お下げしてよろしいですか? 」
メイドは、唇を半開きにして、熱っぽく吐息まじりに訊ねた。
メイドの汗がキラキラとまぶしく、メイドが近づくと、その熱気に浩一もうなされそうにった。
汗が、淫らなミストとなって、包まれていくようだった。
制服の下は、水を打ったように、びっしょりと汗をかいていることだろう。
制服が、女の丸い肢体にピッタリと吸い付き、張り出したところは、きつそうにサテンの生地を押し上げ、くぼんだところは、ヒダ状にしわをを何本も描いている。
サテンの光沢がメイドの動きに会わせて微妙に変化し、
プリプリしたヒップにもう、我慢も限界だった。
「み、ミサトさん! 」
メイドは、返事がなかった。
やはり、機嫌が悪いのだろうか。
背中を向けたまま、食器を片づけている。
メイドの後ろ姿を見つめたまま、浩一は唇を舐め、
もう一度、声を掛けようとした。
と、メイドは腰をくねらせ、片脚に重心をかけると、肩越しに浩一に流し目を送ってきた。
何も言わないが、その口元は浩一の内心を見透かしたように、微笑していた。