転 男転がし
エアコンがフル回転で、キッチンの温度をさげようと、唸りをあげるが、二人には全く効かない。
ムッとするような汗と、性的な分泌物の匂いが、辺り一面に立ちこめていた。
窓の外では、蝉が再び、狂ったように喚声をあげていた。
それは、二人の淫らな姦淫に罵声を上げているようにわき上がっているが、二人にはなんの脅威でもなかった。
いつのまにか、口の中に例のハーブを含まされていた。
ミサトが素早くキスをしたとき、口移しで流し込んだのだろう。
細かくかみ砕かれ、女の唾液によくなじませてあるので、紅茶に使った時よりも効果は迅速だった。
ミサトの唾液が甘いのか、ハーブの味そのものなのかは、定かではない。
しかし、口中にある粘液は、異物として吐き出してしまうには、あまりにも甘媚で、抗えない味わいが魅了する。
浩一の口の中はヌルヌルに潤んでいた。
ハーブは口の中で、熱を帯びたように粘膜を刺激し、ゆっくりと、危険な効果を現し始めている。
だんだんと、舌がもつれ、とろけそうな気分にさせられる。
自分の舌が、意志に関係なく、ピクピクと勝手に動く。
口に力が入らず、唇の端から、唾液をこぼしそうになると、
「こぼしちゃダメ」
ミサトが優しく、たしなめた。
「あぁ、れ、れも・・・」舌がもつれて、勝手に動こうと、痙攣する。
浩一は、赤ん坊のように、よだれをこぼしてしまった。
「アラアラ」
ミサトはエプロンをたぐり寄せ、浩一の口元を拭ってやる。
と、エプロンのポケットを何やら、まさぐっている。
その手を、浩一の前でクルリとひらめかせ、手品のように、指の間から、ハーブのスティックを取り出して見せた。
それを、口にくわえ、ポリポリと先からかみ砕いてゆく。
口の中でモグモグと、唾液になじませると、悩ましい目で見つめながら、キスを迫ってきた。
ネットリと唇を吸い付かせ、開かれた浩一の唇の間から、口移しにミサトの唾液が流し込まれてくる。
今度は大量に流し込んできた。
全部受け取れ、とばかりに長いキスの間、ミサトの舌が唾液を押し込んでくる。
甘い、女の唾液と共に、トロトロとハーブが注ぎ込まれてくる。
「ンンンン・・・」
パッと、唇が離れると、半開きになった、浩一の口中にたっぷりと唾液が見えた。
「よく咬んで、少しずつ、飲むのよ」
意地悪に、少し歯をみせて、ミサトは微笑んだ。
ジ〜〜ンと、口の中に刺激が拡がり、ミサトの言いつけ通り、少しずつ嚥下すると、効き目は全身に拡がった。
内臓の粘膜から吸収され、血液に乗って速やかに全身に運ばれた。
肉体が火照り、瞼が熱くなる。
ミサトにも浩一の目が、真っ赤に欲情しているのが見て取れた。
ミサト自身は、口中にたっぷりと唾液を含んで、すばやく、浩一に口移しで、吐き出したのているので、ハーブの効果は僅かである。
何度も使用しているせいもあって、耐性が出来ているのかもしれない。
うっすらと、頬に赤みがさしている程度で、浩一のように全身に症状が出ることもない。
「効いてきた? 」ミサトはニヤリとほくそ笑んだ。
やはり、媚薬だ。これは、毒だ。
そう、心の隅で抗ってはみても、体は完全に毒の虜になっていた。
コクン、コクンと、嚥下してゆく。
おいしい、やめられない。
毒と知りながら、浩一はミサトの唾を受け入れていた。
ミサトが光りを帯びているようにまぶしく見える。
輝く白い肌。艶やかな唇。 鳶色の瞳に、吸い込まれそうにとろけてしまう。
「効くでしょう? 」まぶしそうにする浩一を、ミサトは満足そうに眺めた。
目を閉じると、体がグラグラとする。 真っ白な空間に心だけが漂っているようだった。
ミサトが、耳元に囁いてくるたび、フワフワと揺りかごに、揺られているように、心地よい。
永久にミサトに囁かれていたい。
そんな気分にさせられた。
「すごい汗・・・」汗を舌ですくってやると、かすかに、例のハーブの味が感じられた。
ミサトはその味に満足した。
媚薬は、浩一の体内の隅々にまで行き渡ったのだ。
こうなると、浩一はどこを触られても、感じるだろう。
その、効き目のある限り、いつまでも・・・