転 男転がし
電話は長引いた。
ミサトは受話器を耳にしたまま、イスにどっかりと、腰掛けた。
時々、浩一の方を見やりながら、話をしている。
一方的に先方が、に用件を伝えているようだ。
ミサトはときおり相づちをうって、先を促している。
ミサトは汗で貼りついた服を、指でつまんではためかせた。
汗で、額から頬に貼りついた髪をかき上げ、大きく伸びをすると、
浩一に微笑して、脚を組んだ。
汗に光るナイロンに包まれた脚をブラブラさせながら、電話を受けている。
メイドが電話に出ている間、浩一はノロノロと、立ち上がってズボンを履く。
すっかり気持ちを殺がれてしまった。
全身、汗まみれで、気持ちが悪い。
浩一は何か飲み物を口にしようと、冷蔵庫に向かった。
ミサトは、フラフラとゾンビのように歩く、汗まみれになった浩一を、目で追いかけながら、電話の相手とやりとりしている。
「ですから・・・」
「それは・・・」
窓の外では、蝉の声に混じって、拡声器による人の声が耳に届いた。
大型の冷蔵庫の扉が重く感じられた。
開けると、冷たい冷気が足下にヒンヤリと垂れてきた。
中はキチンと整理されている。
無地の硝子のボトルが、扉の内側に幾種類もさしてある。
冷たい果物ジュースを飲みたかった。
しかし、それらしきものは見あたらない。
黒いボトルを一本手に取ってみる、アイスコーヒーでもいい。
香りを嗅いでみると、ブドウのような匂いがした。
グレープだろうか。
これが欲しい、体がそう訴えて、考えるよりも行動に従った。
ミサトが使ったコップだろう。シンクの上にあるコップを使った。
縁に赤い、ミサトの口紅が生々しかった。
一口飲んで、控えめな甘さが気に入った。
グレープではないが、果物の味に近い。
浩一は並々とコップにつぐと、一息に飲み干してしまった。
急に気分がスッキリとしてきた。汗と共にミサトの毒気がぬけていったようだ。
口をぬぐって、窓の外をみやると、晴天の青空だった。
今日は町のほうが、にぎやかだ。
人の喚声のような声・・・あれは山車のかけ声だ。
そうか。明日からお祭りだ。
ボンヤリと、自分がここに住んでいた頃を思う。
高校最後の夏休み、その頃つきあっていた女性を思った。
視界の隅で何か気配がした。
脚を組んで椅子に座るメイドが、手の平をヒラヒラさせて、浩一を手招いている。
ボンヤリとした目で、浩一はメイドを見返した。
微笑しながら、受話器を耳にしたまま、メイドは手招きしている。
浩一に、ここに来るよう、手の平をヒラヒラさせている。
浩一は蝶に導かれるように、よろよろとのろい足取りでメイドに引き寄せられていった。
浩一を呼び寄せると、ミサトは浩一を見上げ、目を細める、組んでいた足の先で股間をトントンとノックした。
浩一がぴくっと、反応をみせると、浩一をじっとみつめながら、微笑し、組んでいた脚をホッコリと開いた。
ずり上がったスカートのカーテンがパラリと捲れ、ショーツを履いていない女の肉びらに、浩一の目は釘付けにされた。
たちまち、男の本能に火がともされた。
何も言えず、ただ、立ちつくす浩一に、ミサトは、唇だけ動かして、(いらっしゃい)と、身振りで示した。
この体勢で続きをしてくれると言うことらしい。
浩一は向き合って、ミサトに覆い被さろうとすると、ミサトは明らかに困ったように、眉を曇らせた。
受話器を肩と耳に挟んで、両手で浩一のズボンを掴むと、乱暴に浩一に回れ右をさせる。
クルリと回った浩一は、腰をそのまま、後ろに引っぱられ、ミサトの上に腰掛けさせられた。
すぐさま、ミサトの両足が左右から、前に回り込み、ギュウッと巻き付き、浩一を完全に捉えた。
罠にかかったように、浩一はミサトの脚に絡め取られてしまった。
「言いたいことはそれだけで」
「あまり無理強いは・・・」
ミサトは何もないように、平然と電話を続けている。しかし、微かに困惑の表情が浮かんでいた。
挟む力を強めたり、弱めたりしながら、浩一の体の感触を楽しんでいる。浩一は手のやり場に困り、ナイロンに包まれたミサトの脚に軽く手を載せ、そのたまらない手触りをこっそりと堪能した。
ミサトの脚が、浩一を扱く巨大な指のように、上下に胴を刺激する。
ナイロンに包まれた、足のかかとが股間に何度もめり込む。
ミサトは、柔らかい浩一の股間を、かかとで押しつぶすように、踏みにじってやった。
「うん!」
必死に声をかみ殺す浩一の苦しみをよそに、ミサトは電話に対応している。
ミサトの柔らかい脚が、横腹を締め付けてゆくと、くすぐったいような快感で声が漏れそうになる。
電話がその声を拾わないように、浩一は必死で口を堅く結んだ。
電話に出ていたメイドは、誰かとしきりに言葉を交わしている。
内容はわからないが、少し困っているようだった。
ミサトはチラリと浩一の横顔を見た。
浩一が電話の内容に聞き耳を立てようとしている。
ミサトはそれを察知すると、一瞬、ムッとした表情になり、メリメリと両脚で浩一の胴を締め上げにかかった。
あばら骨がギシギシと、きしみながら、浩一の体から酸素が押し出されてゆく。
血圧は上昇し、顔はみるみる真っ赤に染まり、顔がむくんでゆく。
「うぐぐ、ぶふぅ〜〜〜」
息を吸い込もうとしても、いったん息を吐いたが最後、更に締め付けられ、吸い込むことができない。
ミサトは締め付けながら、浩一の前で交差させた足のかかとで萎えてしまったシンボルを圧迫している。
足をクルクルとまわし、かかとでグリグリと嫐ってくる。
ガンガンと耳鳴りがし、だんだんと苦しくなってきた。
「それは・・・」
(あ・あ・あ・)
「こちらの・・・」
ミサトは平然と電話を続けている。
これほど、強烈な締め付けをかけながら、声には、まったく抑揚がみられない。
何を話しているのか、さっぱりわからない。
話の内容どころではない。
息ができない。浩一は、もがきだして、ミサトの脚を必死に振り解こうとするが、力を出そうとすれば、するほど、頭がガンガンとしてくる。
死ぬ。そう思った瞬間、ミサトは少し、脚を緩めてくれた。
「あぶぅ〜〜」
ハッ、ハッ、二、三回急いで息を継ぐと、ミサトは脚をクネクネと浩一の体に擦りつけて、その感触を楽しませてやる。
浩一もあぶないところで、開放感にひたりながら、ミサトの脚に擦られるまま息を整えようとした。
が、ギュウウッと、またしても、ミサトの脚は締め付けにかかった。
不意を完全につかれた。 脚で優しく嬲られている内に、抜け出せばよかったものを、すっかり、脚に心を奪われ、力の抜けたところを狙われた。
いつのまにか、片方の手首に何かを巻き付けられた。
仰け反って、ふりかえると、エプロンの紐で縛られている。
ミサトは電話を肩と耳に挟みながら、もう片方の手首を縛ろうとしていた。
ミサトが、もがこうとする浩一の両腕を片手で束ね、そのまま、後ろにひねって、関節技をかためてしまった。
「う、」関節をかためられているので、無理にもがこうとしても、痛くて、かなわない。あっというまにミサトは浩一の両腕を後ろに縛ってしまった。
浩一の胴を締め上げるミサトの両脚を、両腕で、抱えるような格好で手首を縛られてしまった。
ちょうど、ミサトを背中におぶっているような格好で椅子にのけぞっていた。
まったく容赦のない冷徹な締め上かただった。
せっかく吸い込んだ新鮮な空気がたちまち吐き出される。
「ぶふぉお〜 」
かかとが股間に強烈に食い込み、いくつかのツボをいっぺんに刺激される。
「う、う、うぅ!」ユッサユッサと、揺すられると、ますます肺の中から空気が抜けていく。そのたびにミサトの脚が窄まってゆく。 「や、やめ・・・ろ・・・」蚊の鳴くような声で訴える。
が、更に締め付けられる。声が出ない。
ミサトが少し、締め付けを緩めると、
「苦しい! ハッ、アァ!」水難者のように、浩一は溺れかけていた。
すぐに締め付けは再開される。
「うぶぅ〜」
今、ほんの一、二回吸った空気がたちまち搾り取られてゆく。
「アッハハッ」
ミサトは浩一の目を覗き込んで笑った。
ゾクゾクとくるような、残酷な笑みだった。
萎えた股間に甘い疼きを響かせるような笑い声だった。
笑いが止まらない声で、ミサトは電話を続けた。
「いえ、こちらのこと・・・」
「いーえぇ、可笑しい光景を目の当たりにして、つい・・・」
長すぎる。電話が永遠に続くような不安がわいてきた。