転 男転がし
ミサトは受話器を耳と肩に挟んで、両手で浩一のシャツの裾をたくしあげ、汗ばんだ、胸に指を這わせてきた。
力を奪うように、優しく胸に円を描くように、爪の先を滑らせる。
そうやって、抵抗を奪って、ミサトの脚は更に浩一を絞り上げてゆく。
乳首を優しくくすぐってくる。人差し指で細かく払うように振動させてくる。
「あぁっ!」と、声が漏れてしまう。
「ちょっと失礼」
ミサトが受話器を押さえて、浩一の耳に唇を差しこむように、囁いた。
「ちょっと、ぼっちゃま?」
「はぁぁ〜 」耳に歯を立ててやると、浩一は甘い呻きを漏らした。
「あのね、向こうに聞こえちゃってもいいの?」
低い、脅迫するような声ですごみを効かせる。
「くぅ〜ん」まともな返事にならない。
「いいの?」脚でグイグイと締め上げてやる。
「うぅぅ〜」浩一は顔を真っ赤にして、首を振った。
「失礼。いえ、こっちの話」
胴を絞り上げられ、乳首を同時に嫐られ、浩一は唇をかんで、苦しみと、快楽に、声を漏らさないよう必死に堪えた。
ミサトは苛ついているようだ。
それに比例して、締め付けがきつくなるようだった。
耐えられない、浩一は脚をばたつかせ、ミサトの脚を解こうと、手を差しこもうとするが、ビクともしない。
ますます絞り上げられる。
「何度言えばわかるの?」
「どうして、そんなだだをこねるのよ!」
ミサトの口調が荒れてきた。
いったい誰だろう。
浩一が振り向いてミサトの顔を見ると、ミサトは冷たい目でじっと、にらみ返してきた。
胴を締め付けられながら、浩一は胸に痛みを感じた。
同時に、甘い電撃が全身に流れ、ビリリッと痺れた。
頭が真っ白になるような、刺激だった。
ミサトの指が、浩一の両胸の乳首をきつくつまんでいた。
親指と人差し指の爪でキリキリとついばんでいるのだ。
そのまま、乳首を後ろから引っぱられると同時に、締め付けている脚が浩一をグイッと、引き寄せた。
「あわっ!」
完全にミサトに後ろから抱っこされる格好である。
後頭部に、ミサトの柔らかい胸の感触が感じられる。
ミサトは浩一の顔を上から覗き込んできた。
後ろ手に縛り上げられた腕がじゃまな上に、きつく縛られているので、もがくと肩から、手首の関節が痛い。
脚は動かせるが、なんの役にも立たない。
ミサトに完全にホールドされてしまった。
「ああん!」自分の声とは思えないような声を漏らしてしまった。
ミサトが指先に力を加えるたびに、抗えないような痛みと快感が全身を駆け巡る。
「あ!」
信じられないほど、乳首が気持ちいい。
ミサトの指の力加減は巧みで、女の指先ひとつで、体が砂になったように、全身から力が抜けてゆく。血液が砂になったように思うままにならなくなる。
砂時計の砂が流れるように、血の気がさがってゆく。 全身の力も砂になったように、さらさらと抜け落ちてゆく。
意志も砂にされ、サラサラと流れ落ちてゆく。
「うぐぐぐ・・・」
苦しいのに、快楽はそれ以上で、どんどん力が搾り取られてゆくようだった。
胴を締め付ける脚はゴシゴシと上下し、あばらを締め付けるように、動く。
ちょっと緩めては、体を扱いてやり、指は乳首をせわしくくすぐってやる。
快感を与えて、力が抜けたところを再び冷徹に締め上げてやる。
そのたびに、浩一の胸からいっそう、大きく空気が抜けてゆく。
それをしばらく繰り返してやると、浩一の胸の中にある心臓が急激な負担に悲鳴をあげ始めた。
締め付けられて、心臓の収縮が阻害されるようになる。
ミサトの話し声がボソボソと頭の中に響く。
意味は全く理解できないが、その声がとても心地よかった。
何かの駆け引きをしているようだ。
浩一の脳には何も理解できない。
自分に話しかけているのか、電話の相手に話しているのかも分からない。
ただ、声に反応して、小さく呻くだけだった。
(ああ!死む!シム!イッチャウ!)
その瞬間は突然やってきた。
酸欠状態も加わって、その通りになった。
浩一は目の前が真っ暗になった。 血液の循環がとどこおり、浩一は、ブラックアウト、貧血に近い状態で失神させられた。
「ブ・フゥ、ググ・・・」
股間をヒクヒクと震わせ、うっとりと弛緩した。
表情は、白目を剥き、口から泡を吹き、首をポッキリと折ると、ダラリと白い涎がこぼれた。
ビク、ビクン、と、体を震わせ、失神している。
白目を剥いた浩一のズボンの股間に、みるみる滲みが広がってゆく。
失禁状態は明らかであった。
浩一は完全に落とされてしまった。
ミサトのかかとに感じる股間の感触は、ビクビクと痙攣を繰り返し、ガクリ、と浩一が失神するのを見て、ミサトはようやく浩一を解放してやった。
ミサトも、さすがに我を見失っていたことを、後悔した様子だった。
唇を咬んで顔をしかめた。
手首の拘束を解き、絡めた脚を解いてやると、浩一はそのまま前にバッタリと俯せに倒れて、頭を打って、意識が戻った。
ミサトは浩一を脚で転がしてやり、横向きになった浩一の額に足をのせる。
額を何か、ザラザラと撫でられている感触に気付いた。
メイドがナイロンに包まれた足で浩一の額を優しく撫でている。
とても気持ちいいのか、浩一はウットリと笑って、されるがままに横たわっていた。
ミサトは椅子に座ったまま、浩一の額を撫でてやり、浩一が目を薄く開けると、薄く安堵の笑みを浮かべた。
「聞いてるわ」電話をしながら、ナイロンに包まれた綺麗な爪先で、顔を慈しむように、撫でる。
浩一はウットリと目を細め、されるがままだった。
「じゃあ、詳しく聞かせてちょうだい」
浩一は爪先でお尻を小突かれた。
トントン、とミサトが浩一の尻を小突くと、浩一はハッとして、ノロノロと体を起こした。
ミサトが、椅子から、床に寝そべっている浩一を見下ろしている。
ミサトはじっと、浩一の顔を見つめている。
冷たい目であった。
四つん這いから、立ち上がろうとしたが、力が入らない。
自分の股間をみれば、失禁をしていることに気付いた。
(な、なんてことだ) 浩一の顔が醜く歪んだ。
射精ではなく、失禁である。
失神は失禁を伴うことが多々ある。
浩一はミサトに失神させられた上、失禁を見られてしまった。
恐る恐る、ミサトを見ると、ミサトは眉をくもらせ、困ったように唇だけが微笑した。 目が・・・冷たい。
蔑むような眼差しで、浩一の目をじっと、見つめている。
(お、お願い、み、見ない・で・・・)
いたたまれず浩一は、目を伏せた。
「失礼」そう言って、ミサトは電話の相手を沈黙させると、浩一に向かって、手振りで席を外してくれないか、と訴えてきた。
その仕草は、手をシッシッ、とはらい、向こうへ行け、とぞんざいに浩一を追い払おうとしている、ようにも見えた。
浩一は立ち上がることもままならず、ノロノロと四つん這いのまま、廊下に向かった。
今の自分は犬同然。
ミサトのペットなのだ。
そそう、をしたダメなペット。
しかられたペットそのままの態度で、浩一は廊下に出た。
「ぼっちゃま、シャワーを・・・」ミサトに小声で、後ろから声をかけられるが、ズタズタになった浩一には、優しい言葉とはいえなかった。
浩一のような、人間には哀れみや同情ほど、屈辱的な接し方はないのだ。
そんな、浩一の後ろ姿を、ミサトは目を細めてほくそ笑んでいた。
「いいわ、続けてちょうだい」
ミサトは椅子に脚を組んで、受話器を持ったままだった。
本当に長い。長すぎる電話が恨めしかった。
廊下に出て、浴室に向かう途中、「勝手にしなさい!」と、後ろからミサトの大声が聞こえたが、自分に言っているのか、誰かと言い争っているのか、浩一には関係のないことであった。
涙で廊下が歪んで、それどころではなかったのだ。