昼間に電車の中で居眠りをしたせいだろうか。
エアコンは寝室内にヒンヤリとした風を吐き出しているが、体はほってってしまっていた。
旅先のホテルで寝付きの悪い神経質な客のように浩一は
ブランケットをはだけ、寝間着のまま、部屋をでた。
少し外を歩こう。
外は都会ほどとはいえないが、生暖かだった。
夜でもセミの鳴き声が響きわたっている。
庭園を歩きながら、ふと、邸を見ると、父の部屋の窓から明かりが漏れていた。
こんな時間に静養中の父はなにをしているのだろうか。
浩一は屋敷内に戻ると、足音を忍ばせながら、父の部屋に向かった。部屋のドアの前までくるとうめき声が漏れていた。
父が苦しんでいる。
とっさに浩一はドアノブに手をかけるが、鍵がかかっていた。
一気に浩一の不安は爆発し、ドアを乱暴にノックしながら、
父に呼びかけた。
「お父さん! 」
部屋の中から、なにか物音が聞こえ、浩一がドアを強引に開けようとノブをガチャガチャと乱暴にしていると、
カチャリと鍵のはずれる音と同時にドアが開いた。
メイドがそこにいた。メイドは開いたドアの正面、部屋に入ろうとする浩一に立ちふさがるようにしている。心なしかメイドの顔が無表情に固まっていた。
「旦那さまは悪い夢にうなされていたようです」
「夢? 」父が?あの父が悪夢にうなされていた?馬鹿な。
浩一はメイドの肩越しに部屋の中を覗こうとしたが、
メイドが邪魔でベッドがよく見えない。
「お父さん! 」
浩一が再び呼びかけると、ベッドの方から、父の声が聞こえた。
悪夢にうなされていた、という。
「今はもう、落ち着きましたから、心配ありません」
「このドア、鍵がかかっていましたけど・・・」
「あら、そうでした? 旦那様が使われる部屋は、
全てオートロックになっていますので・・・」
すっと、メイドが浩一の前をすり抜け、部屋をでる。
奥に目をやると、ベッドに父の姿を見て取ることが出来た。
父は、大丈夫だ、と無言ではあるが、手をあげて浩一に答えた。
部屋の中からはあの不思議な匂いが立ちこめていた。
「わたしがこの部屋に入ったとき、自動で鍵がかかったんだと思います」
メイドの姿は改めてみると、
ヒラヒラとしたローブを羽織っていた。
生成の光沢のある膝丈のローブだった。
「さ、旦那様を寝かして差し上げましょう」
廊下に出ると、「わたくし、旦那様によく眠れるお薬をお出しします」 メイドは、後は自分にまかせて、ベッドに戻ってもらってかまわない、と言い、「あら、汗でこんなにびっしょり」
そういって、浩一の額をきれいな指先でなぞり、
汗をぬぐった。廊下の薄明かりの中、メイドの瞳は爛々と妖しい光を帯びていた。
「もう一度シャワーで汗を流してから、お休みになられてはいかがですか? 」声をひそめ、ひっそりと囁くように浩一に耳打ちすると、浩一を一人廊下に残し、そそくさと、薬をとりに廊下の奥へと消えた。
廊下を進むメイドのヒップラインは廊下の照明を受けて、艶めかしい光沢を放ち、薄いローブの下で躍動する肉体を容易に想像させた。
メイドが残した、ねっとりとした香水の残り香にうっとりとしながら浩一のシンボルはズキズキと勃起していた。
浩一はメイドのいうとおり、もう一度シャワーを浴びて寝ることにした。脱衣室に入った浩一は、あの不思議な香りを嗅いだ。
香りが浩一の嗅覚を刺激すると、再び浴室でのメイドの指先が肌を這い回る感触が想い出され、興奮が目覚めだした。
汗で張り付いた寝間着を脱いだ浩一は何かを感じた。本能的に、だろうか。浩一の雄の嗅覚は無意識に雌の分泌フェロモンを感じ取っていた。浩一の視界が先程はそこになかった、変化を捉えた。脱衣室にはランドリーワゴンがあるのはそのままだが、バスケットの中身が違っていた。「・・・・・・ 」
浩一は何も考えずに行動していた。バスケットを覗いてみると、ドキリとするような女の匂いが脳随に忍び込んできた。
そこにある何かが何であるか、浩一は思考するよりも先に雄の嗅覚が先に働いた。そこには色も艶めかしい布切れが固めてあった。
バスケットの中で小さくクシャクシャに丸められたその布きれは考えるまでもなく、下着、女物の汚れ物である。色は真珠のように艶やかなレッド、パープル、アイボリー、ブルー、イエロー、ピンク、そして、ブラック。シャンパーン・ゴールドもある。
(こんなにたくさん・・・ )
浩一は女性の下着を目にするのは、なにもこれが初めてではない。しかし、これほどショッキングなカラーの下着は初めて見た。
シャンパーン・ゴールドの布きれはラメを施したようにキラキラと光沢を放っている。
(メイドの下着だ 良い匂いはこの下着の匂いなのか)
頭に血が昇ってズキズキとしてきた。
(こんな・・・ )拡げてみるとその形は履き物、パンティだった。
(なんて、まぶしくて綺麗な下着だろう)
浩一は自分でも気付かないままにメイドの下着に手を付けていた。
(柔らかい・・・スベスベしていて・・・)
その淫らな感触は自分が身に付けたことのないさわり心地だった。その素材が織りなす光の反射は視覚を挑発してくる。つと、浩一の眼はその小さなパンティの一点に釘付けになった。裏側の生地が汗意外の分泌物によって汚れていたのだ。
(ア・・・)
それは小さな染みではあるが、浩一を激しく欲情させるには充分過ぎる形をしていた。うっすらと黄色味を帯びたそのシミは女の性器の当たる部分にあり、その紋様はメイドのそれ、そのものの形をくっきりと写し取っていた。
(こ、これ、は・・・)
理性よりも早く男の性が反応する。今やメイドの匂いをたっぷりと含んだ下着に浩一は身も心も奪われていた。半裸の浩一のブリーフを男の性が激しく突き上げた。
心臓の鼓動はクスリをキメたように早くなり、血液が暴走するポンプによって全身の血管を膨張させる。耳鳴りのような自分の心拍音を感じながら、浩一は更に衝動的な行動にでた。
バスケット中に顔をくっつけるようにかがみ込み、他の下着を次々と漁り始めた。バスケットの中は蛇の抜け殻のようなナイロンの
パンストもあった。これもメイドが脱いだものだ。フワフワとしたこのナイロンの膜がメイドの脚を包んでいたのだ。(いいにおいだ! )ブラも、キャミも、スリップも、ブラウスも、(ハンカチだってある! )両手一杯にそれらを手にした浩一は顔を埋めてその匂いと感触を味わった。
思い切り息を鼻から吸い込むと、頭の中が真っ白になった。視界が暗くなり、耳鳴りは頭のなかでセミのようにうるさくわんわんと響く。理性を奪う魔性の匂いだった。理性をとろけさせて本能のままに男を欲情させる匂いだった。
浩一は深夜の脱衣室で一人、ブリーフ一枚の半裸でうずくまり、両手一杯の危険な香りにはまってしまった。
ブリーフを突き上げる浩一のシンボルは今こそとばかりに、激しく迸りを要求してきた。理性を失っている浩一を咎める者はいない。
突き上げられたブリーフの先は既に染みを浮かべていた。このままにはしていられない。浩一が理性を取り戻すには、自分のシンボルの望みを訊いてやるより他はない。シンボルは浩一に訴えかけるように痙攣を繰り返した。
(・・・・・・)浩一は男の性にまかせ、次の行動に移った。
あろうことか、浩一はその下着を嗅ぎながら、自分のシンボルを扱き始めた。ブリーフに利き手を潜らせ熱く堅くなったシンボルを自慰する、気の遠くなるようなうっとりする痺れに酔いながら、シンボルを扱くたび、繰り返し、繰り返し、快感の電流が下半身を包んでゆく。浩一の手の中でシンボルはぐんぐんと快感を生み出していった。(い、いきそ・・・ウ・・・ )
スッと浩一の視界に人の気配がさした。
廊下側のドアに近い所にメイドがいた。
着替えの寝間着を足下に落としたまま、ほの暗い廊下に影法師のように立っていた。
硬直した空気に浩一は息が詰まったように固まってしまった。