転 男転がし
浩一の父がミサトに出会ったきっかけは、知人の紹介であった。
それは、今から半年程前にさかのぼる。
とある高級エスコート倶楽部に誘われたのだ。そこは、金持ちだけが、会員になることを許される、特殊な秘密倶楽部だった。
ミサトとは、そこで紹介を受けた。
「癒してさしあげます」
確か、そう言って、ミサトはまず、浩一の父にマッサージすることから始めていった。初めは、体の緊張をほぐすような揉みを中心とした手つきであったが、だんだんと、くすぐるような、指先を滑らせるような愛撫にと移行していった。 俗に言う性感マッサージである。 うち寄せるような悦楽の波が全身をヒタヒタと包んでゆく。 ミサトとのプレイは特殊な香が焚かれた。 それが、プレイの進行に伴い、ミサト自身の匂いと混ざり合うと、クラクラとさせる淫らな気分にさせられた。 「熱くなってきましたね」ミサトに絶えず話しかけられながら、浩一の父は、いつしか喘ぎ声を漏らしていた。
時間いっぱい、巧みに射精を先延ばしされ、手だけで気を迸らされてしまった。 「まだこの先がありましたのに・・・」この倶楽部はのサービスは、最終的には本番まで用意されている。しかし、浩一の父は、ミサトの手で、指だけで悶絶させられ、
ミサトに「もっと? 」、 「ずっと、このままがいいの? 」と尋ねられると、頷くしかできなかった。
「感じやすいんですね」と、ミサトは妖しい笑みをこぼし、浩一の父をひたすら責めてやり、 浩一の父は、今までにない快楽を堪能し、全身の気を抜き取られた気分で果ててしまった。 ミサトの指使いは、浩一の父が今までに体験したことのない、不思議な快楽を教えてくれた。
息も絶え絶えになった浩一の父にミサトは優しく、囁いた。
「この次は、もっと、先まで我慢しましょうね」
浩一の父は、すぐにミサトの虜になってしまった。
何度も指名を繰り返すうちに、心までもミサトに奪われてしまったのだ。 はじめこそ、肉体的な性交のみが目的だった浩一の父も、ミサトが誘う、官能の世界に一歩足を踏み入れた途端、忘れられない快楽を植え付けられてしまった。
麻薬のような、快楽だった。
しばらくすると、体が、心が、ミサトを欲しがるようになった。
ある日、浩一の父を肉筒で絞りながら、ミサトは騎乗位で浩一の父を見下ろし、腰を妖しくくねらせながら、
「もう、病みつきになったでしょう?」
毎日のように指名するようになった浩一の父に、ミサトは狡そうな笑みでそう言った。
支配されているのに気付いたときは既に遅かった。
支配される喜びに、浩一の父は、完全に捉えられていたのだ。
ミサトから責められる快楽が、浩一の父を、快楽のくさびに繋ぎ止めてしまったのだ。
ミサトを紹介してくれた知人は、この出会いを始めから仕組んだのだった。 知人はミサトの僕だったのだ。 ミサトに仕え、ミサトから褒美を受ける知人に、浩一の父は、填められた怒りよりも、激しい嫉妬を覚えた。
嫉妬心が浩一の父を、更に一直線にのめり込ませた。
浩一の父は、ミサトを独占したいがばっかりに、ミサトに手をついて懇願した。 自分だけの愛人になって欲しい、と。
そして、ミサトの希望する条件を呑んで、この館にメイドとして住んでもらうことになったのだ。
最初は、浩一の父が主人で、ミサトはその主人の、契約愛人であった。 しかし、そんな関係が続かないことは、ミサトは元より、浩一の父でさえ、感じていた。 他人を寄せ付けない田舎の豪邸に、メイドを装った愛人として、住み込むようになったのは、ミサトの思惑通りだったからだ。
ミサトは住み込みで、浩一の父の懐に潜り込むことに成功すると、だんだんと、本性を表し、他の雇い人を次々と、毒手にかけ、巧みに追い出していった。 一人、また、一人と、雇い人が去ってゆく。
男なら、腹心の部下や使用人は、淫らな罠に嵌められ、信頼を奪われた。
女であれば、秘書や家政婦は、ミサトの僕に誘惑され、あるいは、隆辱され、或者は逃れるように、この地を離れた。
浩一の父は、薄々と感づいてはいたのだが、ミサトを咎めることは、ためらわれた。 ミサトを失いたくなかった。ミサトが全てであった。
浩一の父の取り巻き達が、だんだんと離れていく。
電話で経営の指示を済ますことが多くなり、致命的な、判断ミスを犯すようになるが、やむおえない。 毎日、ほとんど外出することもなく、広い館にメイドと二人きりで過ごす日が多くなった。
浩一の父を取り巻く人間はみな、ミサトに何らかの影響を受けてしまう。 ミサトが浩一の父が目を離した隙に、勝手なお楽しみにふけっているのだ。 ミサトのような女に誘惑されておとなしくしていられるわけがない。 どれほど信頼のおける部下でも、ミサトにかかると、いともたやすく墜とされてしまう。 見張りを立てても、その見張りでさえ、懐柔してしまう。 知らないうちに密かな関係が進行するのではないかと、気がきでない。 嫉妬に狂った浩一の父は、疑わしき者は、クビにしたり、遠方に遠ざけた。 その中には、懐刀ともいえる部下も含まれた。
ミサトを目の届かないところに置くわけにはいかない。
かといって、ミサトを始終側に置くと、決まって、どこであっても、人目をはばからない執拗な挑発を仕掛けてくる。 見えないテーブルの下で、車の中、執務室、電話の最中。
ミサトは、巧みに平静を装いながら、淫らな悪戯を仕掛けてくる。
浩一の父も、ミサトの誘惑には逆らえず、つい、誘われるまま、淫らな秘め事にのめり込んでしまう。 下着だけを脱いでの屋外性交は日常茶飯事になりつつあった。
ミサトは、他人に気づかれるギリギリの状況を楽しむ趣味があるようだった。 きわどいスリルに興奮する質の女であった。
これには、浩一の父も、異常に興奮させられたが、気づかれることだけは、なんとしても避けたかった。 自分が部下にどう思われようと、押さえつけてしまえるが、部下が淫らで美しいミサトを見て欲情するのは、押さえられない、それは、どうしても我慢ならなかった。
結果、浩一の父は、館から出ないようになり、ミサトと二人だけの、閉ざされた世界に自らを置くことになってしまったのだ。