転 男転がし

   その日から、浩一の父は、坂を転がるように墜ちていった。
 ミサトは普通のセックスを受け付けなくなった。 と、言うよりも、浩一の父がミサトの中にたどり着けなくなってしまったのだ。
 さんざん弄ばれ、焦らされ悶絶のあげく、失神させられて果てる。
 ミサトから受ける男を苦しめるような性感責めに、すっかり嵌ってしまった。 毎日、朝、昼、晩、そしてその次の日も、朝、昼、晩、と一週間連続で続くことがあった。 ミサトの責めは日々エスカレートし、浩一の父はますます性感を開拓され、更に強い刺激に悶絶させられるようになってしまった。

 春から夏の初めにかけて暖かくなる頃には、浩一の父は下着を履く暇もなく責められることもあり、ベッドで食事をすることもしょっちゅうであった。 小食になり、目はよどみ、ひんぱんに水を欲しがるようになったので、流動食をとらせた。 足が弱り、庭園に出ることもままならなくなった。 最近は目覚めも悪く、食事はミサトが寝室まで運んでくれた。 ミサトは寝たきりの病人の介護をするように、スプーンで食事をとらせてくれた。 すっかり寝室で過ごすことが多くなった浩一の父ではあるが、ミサトが挑発すれば、スイッチが切り替わり、発情した猫のように浅ましく応じた。


 幾日か過ぎた、昼下がりの寝室。贅沢な装飾を施された室内は、異様な空気に充ち満ちていた。 浩一の父はメイドの昼食後の奉仕を受けていた。 が、ベッドは使われていない。 朝の奉仕のあと、きれいにメークされ、カバーが被せられたままになっていた。

 この頃からミサトは紐を使った、新しい責めを取り入れ始めた。 今も浩一の父は、細く金糸の入った着物の着付けに使うような組紐で綺麗に縛られていた。 縛られるのが常となった。 ミサトの責めが、浩一の父から、更に変質的な嗜好を引き出そうとしていた。 ミサトに見抜かれれば、それは急激な成長を促され、男は更なる快楽地獄へと堕ちてゆく。しかし、どんな快楽も最後は満ち足りてしまう。 欲望の器には限界があったのだ。 満ち足りれば心は冷静になり、他のことに関心を向け始める。 虜でいさせる為には、永遠に満ち足りないようにしてやればいい。ミサトは器が満タンになれば、穴をあけてやった。それでも溢れるのであれば、穴を拡げてやる。更には穴をもう一つ開けてやる。そうやってどんどん快楽を注ぎ込んでやる。こうすれば、男はあっという間にミサトの注ぐ快楽で中身はそっくりと入れ替わってしまう。注ぐのを焦らせば、男はすぐに枯渇してしまう。これがミサトの常套手段で、男は麻薬に溺れたような中毒症状を味わわされるようになる。自分を癒す快楽はミサトが全てで、常に依存するようになってしまうのだ。

 ミサトは特別にあつらえた、絹の制服を身にまとっていた。
 レースと立体裁断で縫製された制服は、ミサトの豊満な肢体に、ピッタリと密着し、艶めかしい光沢を放っている。メイド服にお約束の白いエプロンも絹製で、まぶしい光を反射していた。 

 寝室には場違いな椅子が一つ持ち込まれている。 部屋の壁に設えられた大鏡もそうであったが、ミサトの意思である。浩一の父はそこにいた。そしてメイドは、そのすぐ傍に立っていた。

 書斎にある執務机の椅子。 ヒューマンスケール社の高級な執務椅子。 これに浩一の父は全裸で縛られたまま、座らされ、責められるのだ。 それは、狂おしい程の快楽への特等席だった。 昼間は、ミサトに責めを受けながら、電話による会社の重要な決定を迫られた。 必死に歯を食いしばって耐えるが、声は情けないほど消沈し、先方を不安にさせた。 あまりの快楽に陶酔しきって、返答に詰まると、モニタースピーカーで話しを伺っているミサトが助け船を出してくれる。 ミサトの指示には逆らえなかった。不機嫌にすれば、会話もままならない程に乱暴に責められる。 従っている限り、限りなく優しく、気持ちよくしてくれた。 始めは細く小さな紐で責められたが、すぐに、太く長い紐も使われるようになった。 縛り方も恥ずかしくなるような趣向を凝らしたものにエスカレートした。 そのほうが、浩一の父の反応も良かった。
 
 この紐はいつも同じ紐が用いられ、太さ、長さ別に、6本で一組になっているようである。 ミサトは太く長い紐は、綾織りの豪華な巾着袋に入れて持ち運んだ。細く短い紐はウエストに巻いたり、エプロンのポケットに小さくして忍ばせている。それは、いつでも手品のように、空中からとりだせた。 制服の上にはおったエプロンで普段は隠れているが、チラリとそれを見せられるだけで、その時間になったことを教えられた。 それは、動きを拘束する為でもあるが、何よりも抗えないという暗示を強める為と、性感を煽る為、羞恥心を煽って屈辱を与える縛り方であった。 材質は特製。 良くほぐれた麻縄と、良質の絹の組紐を、専門の職人が熟練の技で丁寧に寄り合わせて作られた、匠の工芸品である。 長さは五尺からさまざま、芯に何を使っているのか定かではないが、ずっしりと重みがある。程良く解れた堅い麻の繊維が、チクチクと肌を刺激し、むず痒い刺激を与えつつ、絹の部分がしなやかに肌に締め付けを与える。強く引き絞ると全体が細く、堅い針金のような糸になって、肉に食い込んでゆく。 緩く縛れば、太く膨らみ、柔らかい女の肌のようなしなやかな質感で淫らな感触を与える。 紐の端は口の開いた筒状に編んである。 一番長くて太い組紐は鞭として使われた。 中に心棒、(ミサトはお気に入りのディルドを挿して使う)、を挿入してやると、グリップ部分となる。 これを使えば、皮の鞭のように、肌を引き裂くこともなく、骨に響くような打撃を与えることができる。 使いこなすには普通の鞭以上の修練を必要とするが、ミサトが操る鞭の先は、音速を超える。 殺意を持って振られれば、相手は見えない風に骨を折られる。 脚を折られた者の話しは、浩一の父も聞かされたが、疑心暗鬼であった。 が、ミサトが実際に椅子の脚を一振りで叩き折って見せた時は、限りなく事実に近い脅しだったのだと、思い知った。 ミサトはその尋常でない破壊力を見せつけた上で、優しく、愛撫するような仕打ちをかける。刃物で肌を愛撫するような危険で抗えない効力があった。

 ミサトはこの組紐を鞭にした時、徹底的に男を嫐った。
 この遊びは、手首と足首を拘束しておき、椅子に座らせる。 少し離れてミサトは鞭を勢いよく振るい、浩一の父の体に巻き付ける。ピシリとしなやかな絹が、触手のように、体に巻き付き、絡め取られてしまう。 そして引き絞ると、見る見ると細く堅く、荒い麻の繊維がむき出しにされ、浩一の父の肉をチクチクといたぶる。
 キリキリと締め付けた後、弾みをつけて紐を引っ張ると、縛られた体は、コマのように、グルグルと椅子に乗って激しく回った。
 このお遊びに使用する紐は、最も長く、6メートルはあるかもしれない。ミサトの足下で、それは蛇のように、とぐろを巻いてのたうっている。

 ミサトは片腕でこの長尺の組紐を鞭として自由自在に操った。
 「フフ〜〜〜ンン・・・」機嫌がよさそうである。

 鼻歌まじりに腕を頭上に上げ、スナップを利かせると、たちまち紐は蛇の化身となって、ミサトの周りで螺旋を描いた。 螺旋がどんどん窄まり、ミサト自身の体に触れた瞬間、蛇は飼い主にじゃれるように、クルクルと巻き付いてゆく。ミサトは神がかった呪い師のように、浩一の父に背を向け、両腕を頭上高く揃え、悩ましく体をひねってつま先立ちで立っている。その上半身を紐が目が回るようなスピードで巻き付いてゆく。 最後の端がミサトの肩を飛び越えると、ミサトの豊満な体に美しい組み紐が幾重にも巻きついていた。 黒い制服の上に食い込む組紐はたまらなく興奮させられた。
 ミサトの豊満な背中から、太股にかけて美しい紐が食い込んでいる。 鞭を体の一部のように、自在に操る女はこの部屋にもう一人いた。 それは部屋の壁に吊られた、大鏡に写ったもう一人のミサトである。 浩一の父は鏡の中のミサトと、目の前に立つミサトに忙しく目を回しながら魅入っていた。目の前のミサトは背中を向けているが、鏡の中のもう一人のミサトは斜め横を見せて立っていた。
 横から見る女体の豊かな曲線に、組紐が段差を刻んでいて、これも扇情的であった。

 「もう待ちきれないみたいね・・・」クスクスと笑いながら、鞭のグリップを指先つまんで、振ってみせる。 ミサトは部屋の大鏡に写った自分に向かって呟いているように見えた。 ミサトは自分の技量にウットリと陶酔している。 そして鏡の中の浩一の父に艶めかしい流し目を送った。 次は旦那様よ、とでも、訴えるような視線である。 ぞっとする程妖艶な笑みを投げかけると、紐を巻き付けた肉体がそっと動き出した。 ミサトがグリップをはたくと紐はパラリとゆるみ、ミサトが勢いよく引っ張ると、紐は衣擦れの音を発しながら、みるみる離れてゆく。そして、元通り、ミサトの足下を螺旋状にとぐろを巻きながら、クルクルとのたうっている。 そのさまは、まるで、カウボーイが投げ縄を操っているように力強く、新体操選手がリボンを操るように優雅で美しかった。ミサトは背中を向けたまま、鏡に映った自分に酔ったように、横顔を見せてニッコリと微笑んでいた。二人のミサトが残酷な笑みを浮かべていた。

 「フフフ・・・、気持ちいいわよ・・・」ミサトはきびすを返し、浩一の父に正面から向き合うと、宣告した。 その言葉に興奮は絶頂に達しつつあった。 組紐の鞭は、まるで生き物のように、ミサトの意のままに蠢いている。 浩一の父は、その妖しげな蠢きに魔法をかけられたように魅入っていた。 見ているだけで、妖しい期待に胸が高鳴る。 ミサトの目が刃物のように、研ぎ澄まされた光を放った。
 「旦那様、動かないでね・・・」
 ミサトが鋭い風きり音をうならせ鞭を振る。
 部屋全体にビリビリと張りつめた気をみなぎらせ、ミサトがスナップを返すと、空気を振るわす音を発しながら、紐は鞭となって、空中を大きな螺旋状に渦巻いた。 

 「それ!」ミサトが一声発すると、その瞬間、異常に高められた浩一の父の感覚には螺旋が止まって見える程、遅く感じた。 スローモーションのように、ゆっくりと鞭が近づいてくる。とても長い瞬間に感じた。 組紐の一つ一つの模様が見て取れる。それが、頭上にゆっくりと降りかかってくる。 そして、輪投げを掛けられるように浩一の父の頭上から、次々と螺旋が降り注ぐ。 耳元を素早くかすめて上半身に鞭が巻き付いた。 浩一の父はその感覚にただ、ただ、呆然として動けなかった。 肌に触れた瞬間、衣擦れの音ともに、自分の上半身を蛇が絡みついてゆく。 目にも止まらぬ速さで体の回りに巻き付いてしまった。
 「はぁ!」浩一の父は、思わず悲鳴に近い喘ぎを漏らした。
 「フフッ」ミサトが引っ張ると、反動が素早く鞭を伝い、浩一の父を締め上げた。メリメリと骨に達する程、紐が肉に食い込んでゆく。
 「アッハハハ」ミサトが大喜びで高らかに笑い声を上げた。
 ミサトが歩み寄って片脚を肘掛けに乗せた。脚で押さえて更に引き絞り上げた。ミサトの上腕に女らしからぬ力こぶが現れた。
「ヒエッ」ムクムクと顔が紫色に腫れ上がり、血圧が一気に上昇する。心臓が心拍で悲鳴を刻んだ。 意識が急速に薄れてゆく。空気を吸い込もうとすると、胸を上半身の紐がそれをあざ笑うように、阻んだ。 狂おしい快感であった。 ひょっとしてこのまま失神させられるのかもしれない。 そう思うと、期待に股間が疼いた。 浩一の父は失神が病みつきになってしまっていた。
 失神は全てのしがらみから自分を解放してくれる唯一の聖域をもたらしてくれる。 ミサトでさえ、この聖域には入れない誰にも干渉されない空間に連れて行ってくれた。
 「う・・・」
 「気持ちいいでしょー?」離れたところから、ミサトの言葉が更に性感を煽る。 「ただの鞭ではこんないい気持ちにはなれなくてよ? 私が操るこの紐だからこそ、気持ちいいの」
 「あ・・・あ・・・」浩一の父は頭をフラフラとさせながら、気を失いかけていた。墜ちる寸前である。

 ミサトはこれら紐の責め道具を、同じ組み合わせで、四組所持していた。 手入れに専門の職人に出した後は、順番に残りを使うことにしていたので、いつも最高のコンディションを維持できた。 使えば使う程、よくこなれ、手になじむ。男の屈辱と歓喜のエキスをタップリと吸った組みひもは妖刀のように、妖しい魔力を宿していることだろう。ミサトに暗示をかけられながら、この紐を味わったら最後、男は心まで縛られてしまう。

 「そぉら・・・」ミサトがゆっくりと鞭を引っ張り始めると、浩一の父はそれに合わせてゆっくりと椅子の上で回り始めた。
 「あ・・・ああ・・・」どんどんと回転が加速し、目の前の情景が素早く通り過ぎてゆく。ミサトがニヤニヤしながら、一瞬、一瞬、目に飛び込んでくる。 三半規管が混乱し、真っ直ぐ座っていられなくなる。ぐらりと世界が傾き、浩一の父は部屋の壁に横っ面を押しつけていた。椅子は回りながら、滑らかに滑って壁にぶつかったのである。
 「あらあら、じっとしていられないのかしらぁ?」
 「アワワワ・・・」
 椅子が滑ったり、椅子から落ちて勝手に回転を止めてしまったら、やり直しである。 浩一の父はつま先をチョコチョコと交互に動かして部屋の真ん中、ミサトの前に戻る。 これが何回も繰り返されると、自分がミサトのオモチャであることを思い知らされるようになる。 髪は乱れ、頬にアザがうっすらと浮かび、目は回り、フラフラして、じっとしていられない。 椅子自体はしっかりとしているので、倒れることはないが、椅子から落ちることは避けられなかった。 落ちた時はいっそう惨めであった。ミサトはすぐには助けてくれない。 両手と足首を縛られた男が苦心して椅子に座ろうともがく様をじっと冷たく見守っている。 限られた権力者だけが座れる高級な執務椅子に、無様にすがっているその姿は、今の地位にある男の、人生の縮図を垣間見ているようでもあった。 回転の際、椅子はどうしても動き出してしまう。 浩一の父は椅子が転がらないように、つま先だけで、床にふんばるのだが、回り出すと、体がじっとしていられず、自分で床を蹴って滑り出してしまう。陶酔の気配がジワジワと全身を包み、だんだんとミサトの鞭の合図のまま、何も考えられず何度も椅子に座り直す。 部屋の中は二十メートル四方と広い。天上も四メートルはあるが、書棚や、テーブル、その他の調度品は浩一の父にとって、危険な障害だった。ぶつかれば、アザになってしまうだろう。レッドウッドの板張りの床に椅子の滑ったあとが、幾筋も残っている。 床には、鞭の後が刻まれ、幾つかの高価な調度品はミサトの鞭によって傷物にされていた。
 しかし、部屋の状態より、浩一の父自身の体の傷み具合の方が酷かった。背中は鞭による赤い傷跡が生々しく刻まれている。
 腕も縛られた痕跡がくっきりと浮かんでいた。
 消えても、癒えても、ミサトが繰り返し繰り返し、責めるので、消えることはなく、これが当たり前になりつつあった。

 数えられない程、回された後、浩一の父が椅子にぐったりとへばっていると、ミサトが近づいて来た。紐の先を垂らし、額から、下半身へとゆっくりと、なぞってゆく。異常に敏感に目覚めた感覚がビリビリと反応した。上から顔を見下ろしてくるミサトの額は玉のような汗でキラキラと光り、髪の毛を汗が伝い、うっすらと赤味をさした陶磁器のような頬にベットリと張り付いていた。

 「旦那様、目がグルグルまわっていますよ」
 「私が見える? ん?見なさい」
鞭を顎に引っかけると、クィッと引き起こされる。
 「私の目を・・・」ミサトの鳶色の瞳が心の中に踏み込んでくるようで、思わず目を逸らしてしまった。クィッ、と鞭から反動が伝わってくる。
 「駄目。一生懸命見るの」視線が合うと、もう、逸らせなくなった。 瞼の上のあたりから熱くなり、どんどんミサトの意思が流れ込んでくるようだった。
 「そぉう・・・じーっと見つめていなさい」
 「だんだん・・・体がほてってくるでしょう」
 「どんどん熱く疼いてくる。全身の熱くなった血がグルグルと回っている・・・」

 

 紐が触れると、甘い陶酔感が浸み、ウットリとさせられるような快感に痺れた。鞭をクルリと首に巻き付けられて、ミサトが引き絞ると、肌の表面を邪悪な蛇の化身が這い回るように、滑ってゆく。 その刺激はたまらなく興奮させられた。 こんな愛撫に感じさせられるのも不思議であるが、ミサトによって、感じてしまうようにされてしまったのだ。 しばし、羽のようなタッチで全身を弄んでから、今度は、幾重にも束ねた状態で太股をパシリ、パシリと軽く叩き始める。 一打ちごとに、皮膚の上をビリビリと痺れるような快感が拡がってゆく。肉棒は完全な勃起に至っていないが、芯がジリジリと疼くような快感でヒクヒクと痙攣していた。

 「痛い?」
 「ああ、気持ちいい、もっと、もっとぶってください」
 「フフン、こういうのは、病みつきになるとこわいわよ」
 「痛みが・・・」 
パシリ、短くして叩く。
 「あ!」浩一の父のシンボルはヒクリと反応する。
 「快感に・・・」パシィ〜〜ン、少し長く持って、軽く叩きつけられる。
 「あぁ!」浩一の父の肉棒の先から透明な糸がキラリと光っていた。 それは、腰の震えに合わせてゆらゆらとぶら下がり、揺れていた。ミサトは片眉をつり上げ口角をつり上げてほくそ笑んでいた。

 「あ〜らあらあら、なぁーに、それ? 何か漏れてますよ? 旦那様? これ?」ミサトが指に掬って突きつけた。
 「フフッ、またお漏らしですか? 駄目って申し上げましたけど、我慢できないの? 」
 「あ〜あ、ちょっと、これ、ご覧になれます? これ・・・」

 椅子の座面は、透明な滴を吸ってシミになっていた。
 「こらえ性のない人ね〜〜〜ねぇ? 」
 ミサトは細い組紐を手に、浩一の父の腰にかがんだ。 両手を回して言葉嫐りをしながら、紐を勃起した肉棒にクルクルと巻き付け始めた。
 「こらえ性のない旦那様はやっぱりこれね・・・」手際よくシンボルを複雑に縛り上げてゆく。
 「戒めが必要・・・」ギュッ、ギュッ、と更に絞り上げる。
 「アアン? また堅くなった。なぁに、これ、縛られてもっと堅くなるの? いやらしくなられたわねぇ〜〜ねぇ〜〜? ひょっとして、旦那様こうされるのが、好きになっちゃったんじゃありません? 」
 答えの代わりにシンボルがヒクヒクと頷いた。
 「フフフ、すっかり私の紐がお気に入りかしら」
 ミサトは、紐で太股を軽く何度も繰り返し叩いた。
 パシーン、叩かれるたびにシンボルが歓喜に震えた。
 「ああ、もっと・・・もっと強く・・・」肉棒がビクビクと痙攣しているのが伺えた。赤紫に染まったソレは、縛られて一層醜く、膨張していた。
 ミサトは上機嫌だった。その反応が楽しくて仕方がないようである。

 「ハイハイ、じゃ、少し強くしてあげるから立ちなさい」 浩一の父を引き起こすと、椅子の座面に膝立ちで背中を向けさせる。ミサトが手にした紐をパラリパラリと解いて、二つ折りに束ねた状態まで解いた。 
 「じゃ、いいわね?」
 歯を見せてニヤニヤと笑っている。残酷な笑みである。
 「ハヒッ、ハイッお願いします!」ミサトの笑みに少し怯えながら、浩一の父は肩越しに振り返り、自ら責められることを望んだ。

 「フッフフフ、そら!」ヒュッ、と風を切る音と同時に、背中に焼け火箸を押しつけられるような熱い痛みが叩きつけられた。

 「ぎゃあー!」悲鳴に鞭が叩きつけられる鋭い音が、かき消された。 ミサトの一撃に肉棒は激しく反り返り、下腹部に亀頭が張り付いた。それは火にくべた石のように熱く、堅く勃起した。
 「フッフッフッ、いかが? 良かったの? どうする? 続ける? 」
 「ふぅ、ふぅ、は・・・はい、お願いします」涙を滲ませながらも、浩一の父は更に望んだ。

 「いい子になったわ。では、愛情こめて、泣かせてあげます」
 ミサトは遠慮なく、主人の背中を赤く染めてやることにした。
 「ひげぇぇぇぇ、ひぇぇぇ! ひぇぇぇ!」肉を引き裂かんばかりの張り裂けた音が部屋に響き渡った。 ゆっくりと一回、一回悲鳴を堪能しながら、ミサトは鞭を震った。
 「フフフ、愛の鞭よ、これは、旦那様に新しい躾を覚え込ませる為の愛の鞭。 私に逆らったら気持ちよくない痛みになるし、、私に従えば、気持ちよくなる、魔法の鞭・・・」

 ミサトは、強烈な刺激を与えた後は、必ずとろけるような愛撫を繰り出してきた。 打ち据えるのが一段落すると、ミサトは浩一の頭を引き起こし、目の前に鞭を突きつけてきた。 

 「この紐をよく見て覚えて起きなさい、痛みと快楽を、この形を、色を、どういう風に旦那様を可愛がってくれるのか。 頭の中に真っ白けになるくらい焼き付けておきなさい」
 アンチな焼き付けであった。叩かれるたびに、露光過剰になった銀盤フィルムのように、真っ白な閃光が焼き付いてゆくのだ。
 
「はい・・・わ、忘れません」
 「フフン、いい子・・・」ミサトは慈愛に満ちた目をしてやり、浩一の父の体に鞭をゆっくりと滑らせ始めた。

 「いい子になったわ、旦那様は・・・」譫言のように、呟きながら、ミサトは鞭で優しく赤く染まった背中を、敏感に目覚めた性感帯を刺激してゆく。
 「ああ・・・すごく気持ちいいです・・・溶けそうです・・・」
 浩一の父は熱にうなされたように、喘いだ。
 ミサトは縛られた浩一の父が、体をくねらす様子をおもしろがって、何度もこの組紐を肌に滑らせ、性感帯をくすぐった。 紐が羽のように、微かに触れると皮膚がジンジンと疼いた。 紐に教えてられた甘い痛みを、皮膚が覚えており、本人の意思に関係なく期待に泡立った。 このような、全身をくすぐるお遊びの途中で射精してしまうこともあった。 お漏らしをすると、ミサトは例の不機嫌な態度を取った。 なぜ我慢できないのか、と。ネチネチと言葉でも責めた。 もちろんミサトは、男が我慢できなくなるのを、承知の上で射精させたのであるが、浩一の父を鞭で打ち据える口実を設けたかったのだ。 再びとろけるような悦楽の時間は終わり、痛みを伴う強烈な痛みの快楽を、ミサトの鞭で味わわされるのだ。
 これが、何度も繰り返される。 実際は二、三回のインターバルであったが、時間の感覚を奪われると、永遠に続くかと思わされた。 ミサトの組紐は魔性の鞭。男を絡め取り、縛り、絞り上げ、辱め、屈辱を与え、打ち据えた上、嫐られる快楽を肌に刻み込む魔法の紐だった。
 
 鞭が甘い痛みを一条、二条と肌に紅をさしてゆく。 ミサトが悪意をもって自分を打ち据えれば、自分などひとたまりもないだろう。 浩一の父には、ミサトが自分を気持ちよくする為に鞭をふるってくれていると思わせた。 本物の鞭だが、優しく打ち据えてくれている、と思わせるのが、ミサトの狙いだった。これで信頼関係を覚え込まされると、浩一の父はますますミサトに依存するようになり、従順な奴隷に成り下がる。

 愛情溢れる鞭の痛みは、浩一の父を虜にした。
 鞭が肌に打ち込まれると肉棒の芯が熱く疼く。積み木のように快感が一振りごとに積み上げられていく。 あと、一回、受ければ絶頂に達する寸前まで打ち込まれる。 肌の表面を痺れさせるような鋭い痛み。肌を打つ瞬間、強烈な快感がほんの一瞬だけ火花を散らす。 その一瞬の為に浩一の父は痛みを耐えた。
 
 ミサトが背中を向けている浩一の父を、背もたれに脚で押さえつけると、椅子にグルグルと縛り付け始めた。後ろ向きに座面に膝立ちの浩一の父は、背もたれに両肩を乗せ、真っ直ぐに束ねられた両腕を背もたれに固定される。足首を縛られた脚は、膝を開かされ、それぞれ左右の肘掛けに結びつけられてしまった。
 刷り込みの時間になったのだ。
 「旦那様はもう私の紐の虜、私の所有物、全ての権利は私に」
 「私がこうしたら、」指を二本だして、ハサミを表す。
 「私がこうしたら、」紐を束ねて、ブンブンとならす。
 「私がこうしたら、」紐を一本にして、鞭のように、床を打つ。
 「旦那様はスイッチが入るのよ。 私に従順な快楽奴隷に切り替わるスイッチが」
 「で、私がこうしたら、」
手を艶めかしくヒラヒラと泳がせる。
 「旦那様はどんどん気持ちよくなって、ゆく」
 背後から、ミサトの白い手が脇から胸に滑り、くすぐるように愛撫する。ゆっくりと股間に近づき、脚の付け根を撫でてやる。
 「最後は触られて、私の許しがあって、死ぬほど気持ちよくなってイク。その時は何もかも全て私の思うがままよ」

 椅子の上に固定された浩一の父をグイッと掴むと、軽く手を離してやるだけで、椅子はゆっくりと回転した。ミサトは繰り返した。
 「私がこうしたら・・・」回転する浩一の父を、指二本で乳首をチョキン、チョキンとつついてやると、浩一の父はミサトを見ようとして首を回しながら、悶えた。
 「私がこうしたら・・・」束ねた紐で上半身をくすぐりながら最後はブンブン、と音を覚えさせてやる。

 「私がこうしたら!」素早く一本に伸ばし、頭上で螺旋を描いて床を打ち鳴らした。脚で回転を止めてやる。震えながら喘ぐ浩一の父に覆い被さるように立ち、顎を人差し指で起こしてやり、迫った。

 「旦那様はどうなるの? ん?」真横に立って背中をさすってやりながら、ミサトは顔を覗き込んだ。
 「ん?」見透かしたようなしたり顔で小首を傾げる。 
 「奴隷です!ミサトお姉様の従順な快楽奴隷です!」
 クラクラと目眩に酔いながら浩一の父は答えた。毎回同じことを聞かれるので、何を答えればいいのか浩一の父は体で覚えていた。
 頭が朦朧としていても、スラスラと答えることが出来た。

 「そう、そうよ・・・」ミサトはニンマリと満面の笑顔で褒めてやった。
 「私がこうしたら・・・」手を浩一の父の目の前でヒラヒラとさせ、指を艶めかしく蠢かせると浩一の父の目はウットリと見とれ、待ちきれないとばかりに腰をもぞつかせた。
 ミサトはそんな浩一の父の目をじっと見つめながら手を男の乳首に這わせ、ゆっくりと、下半身にむかって滑らせてゆく。大きな毒蜘蛛が這っているような危険な感触に、浩一の父は息を荒げて興奮していた。ミサトは瞬き一つせずに、浩一の父の目を見つめながら指先でしとどに濡れた敏感な亀頭にゆっくりと爪の先を感じさせ、ジリジリと焦らすようにくすぐり始めた。長い鞭が体を蛇のように滑る感触と同時に股間を嫐る指先によって、快感がうねるように沸き上がってきた。ミサトの目がウットリと細められる。艶やかな唇がニンマリと微笑した。全身が甘い悦楽に浸かり、痺れ始める。

 「イキそうになっている・・・」ミサトがそっと囁いた。
 「とっても気持よくなっているでしょ・・・」甘い声にとろけそうだった。
 「我慢できなくなるでしょ・・・」言葉通りになってきた。ミサトが肉棒に格子状に食い込む紐をそっとなぞり上げる。

 「ああ、イキそうです、い、イキそうでふ!」

 「すごく気持ちいい? ん?」ミサトは鞭を首にクルクルと巻き付けると、ゆっくりと引き絞り始めた。滑らかな組紐が肌を擦りながらキュンキュン、と頸動脈を締め付けてゆく。
 「グッ、ウッ、いい、いいです! イキそうです! い、イカせてください!」顔を真っ赤にむくませながら、浩一の父は意識が朦朧と霞んできた。 肉棒は解放の期待に一層膨らみ、頷くようにヒクヒクと震え、尿道から先走り汁を零そうと口をパクパクと開いていた。 ちまきに縛られた肉棒から慎重な手つきで戒めが解かれる。 紐が取り除かれると、肉棒は一層豊かな先走り汁を垂れ流し始めた。 ミサトの人差し指がツーーーッと竿をなぞり始めた。

 「イキたいの・・・? ぶちまけたくてしかたがない?」焦らして楽しんでいた。片方の手が男の尻の割れ目をジワジワとなぞり始める。 窄まりは軽く穿ち、ヒクヒクと期待に戦慄いている。女のしなやかな指には、既に例のジェルがたっぷりとまぶされており、男の排泄器官は、ピタピタと淫らな音を漏らし、ヌルヌルにぬかるんだ女性器と成り果てていた。

 「い、イカせてください!」綺麗な爪の先が裏筋を何度も何度なぞり続ける。気が狂いそうな焦れったさであった。

 「フフフ、もちろんよ・・・これはご褒美よ・・・」ヒクヒクとわななく後ろの性器にミサトが束ねた指をグリグリと突き入れてきた。拡げられ、敏感な泣き所を擦られる感触が浩一の父を悶絶させ始めた。
 「たっぷりぶちまけさせてあげる・・・」

 「オオオオ〜、いい、いいい、」
 「フフフ、もっと欲しい?」
 「もっと、おおぉもっとぉぉ!」
 「ハ〜〜イハイ、そ〜ら、召し上がれ!」
 今では三本。 人差し指から薬指までくわえ込むように開拓されていた。 前を弄ぶミサトの指が、一本ずつ肉棒に巻き付いてきた。
 「好きねぇ〜〜〜旦那様も・・・」
 「ホラホラホラ・・・」

 「おお・・・ホォォォ〜〜」
 ズンズンと後ろを突いてやると、浩一の父はクネクネと腰を自ら振って快楽をむさぼった。
 「フフフ・・・・・・もう我慢できないでしょう?」
 「おおお、ほぉおお!」
 「いいわ・・・イッテも・・・イキなさい、ほら・・・」
 カリの下に絡みついた指が、クルリとひねりをくわえると、ズキンと芯の方から絶頂の迸りがこみ上げてきた。 後ろを責める指の束が、ゆっくりと回転しながら、内側の粘膜を蹂躙する。更にミサトは唇をすぼめ、フゥッ、と、背中に息を吹きかけてやると、ぞわぞわと背中が粟立ち、産毛が総毛立った。 

 「そら・・・」とどめの一撃にふさわしくない、静かな一声だった。
 ポツリと漏らされた言葉とは裏腹に、両手が前と後を同時に、一度だけ強い刺激を喰らわせた。
 「ブガッ!」一気に浩一の父の全身がオルガスムスに貫かれ、ブルッと大きく震えると、亀頭の先が炸裂するように、快楽が爆ぜた。
 「ああああっ! いきまっ、おおおっ!オオ〜〜〜!」
 「ほら、もっと! もっとイキなさいな! はじけちゃいなさい!」ミサトの煽りに捲られ、激しい絶頂がうねった。
 「おおおお、おおおっほぉ、おおおお〜〜〜」
 大量の迸りを吹き上げながら、浩一の父はガクンガクンと、激しく腰を震わせた。 迸りは椅子の座面に激しく何度も繰り返し叩きつけられるように爆ぜた。
 「おおぉ・・・・・・」
 気を失った男の肉体は、椅子の背もたれに掛けられたトレンチコートのように、生気を失っていた。 持ち主は今そこにはいない。
 肛門は大きな穴を穿ち、パックリと開いたまま、ピンクの粘膜を晒していた。 その祠に見入るミサトの目は、期待と興奮にギラギラと光っていた。 
 「もうすぐね・・・」ミサトは小さく呟いた。


 

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メイド 魔性の快楽地獄