転 男転がし

  昼間の日差しのきつい時間帯とはいえ、祭りの行われる本通りは、町の住人と、観光客で覆い尽くされていた。 例年にない盛況ぶりであり、浩一はその光景に、圧倒される思いであった。    
 メディアの発達によって、この地方の祭りが全国に知れ渡ることになったのも、今年の異常な盛り上がりの起因である。
 今からこの状態なら、夜は更に人波で溢れかえることだろう。

 「あの、わたし、根っからの地元に人間じゃないので、ここには、まだまだなじめなくて・・・・・・あの、一人で見物しようと思っていたんです、あの、すごい偶然ですよね?」看護婦は夜勤など、シフト勤務があるらしいから、午前中であがったのだろう。 浩一は、それを口にして確かめるまでもなく、勝手に推測した。
 浩一は、昼間の明るい日差しの中、看護婦の藤崎と祭りを見物することにした。
 
 並んで歩くと、看護婦の履き物が、カラリ、カラリと心地よく響く。 年下の、モデルのような女性と、並んで祭り見物ができるとは幸運だった。 浩一は妙にウキウキと浮かれた気分になった。
 看護婦は、白いゆかたが輝くようで目にまぶしかった。
 藤崎は先ほど看護婦姿で会ったばかりだというのに、今はゆかた姿であった。 どちらも白いが、看護婦姿よりも一層体のライン細く見え、白い精霊のようだった。色白な小さい顔に赤くなった耳がいじらしい。
 浩一は、細めた目で肩から、柳のような腰、まだのりの堅さの残る、ゆかたに浮き出したヒップのラインをたどっていた。

 と、浩一は藤崎の横目に、視界の隅で見られているような気がし、その表情を伺った。
 その表情は太陽の光にボンヤリと輝き、上機嫌に微笑んでいる。
 浩一の淫らな視線に、気づいて気づかないふりだろうか。
 この年頃にもなれば、男が自分のどこに関心を抱くのかは充分承知しているはずである。 もちろん自分がどれだけ魅力的かも、経験上理解しているはずだ。
 浩一の視線には気づいたに違いない。 浩一はカッと顔がほてるのを感じた。

 「あ・・・山車の引き回しって、もう終わったのかしら・・・」
 藤崎は最初の冷たそうな印象と違い、うれしそうによく喋った。
 ここへは、都会の病院から紹介を経て、二ヶ月程だとうち明け、人混みの奥へと、並んで歩く。
 「あの、私、イントネーションが違うらしくて・・・」なるほど、と、浩一は看護婦の話し方に合点がいった。
 確かにこの地方は際だった方言は使われなくなったとはいえ、イントネーションは微妙に異なる。 しゃべり始めにどもるのは、誰かにイントネーションの違いを指摘されたからかもしれない。言葉の壁が、この看護婦を萎縮させているのだ。 浩一も都会暮らしが長いので、標準語を喋るようになったが、藤崎との会話に、まったく違和感を感じないのはそのせいだった。
 藤崎が最初の印象と違って積極的に喋るのは、この地方で、自分と同じ、都会から来た人間に接することができたからに相違ない。
 浩一も、藤崎と同じイントネーションで喋るからだ。
 同じく、ミサトも標準語を使う。
 浩一はふと、メイドを思いだした。 
 ミサトの事を思うと、帰りたくなった。
 自分自身が、ミサトの元にいたい、と望んでいるのを認めたくなかった。 父が心配だ、などと、浩一は自分に言い聞かせてはみるものの、
 (戻って・・・あの快楽を味わいたい)
 そう考え出すと、祭り見物など、さっさと切り上げたくなっていた。 
 (早く帰ろう・・・)浩一の顔がほてり、焦りのような焦燥感が浮かんでいるのを、看護婦が時折、横目で伺っているのを浩一は気づいていなかった。

 「奥の方に山車の行列を見に行きましょう」
 並んで歩いていると、看護婦は、足運びも浩一にピッタリ合っている。 この地方の人間は、のんびりした時間で生活しているので、自然と移動もゆったりした足運びとなる。
 都会暮らしの長い浩一も、都会から移ってきたこの看護婦も、足運びは同じであった。 スタスタと踵を引きずらずに歩く。
 ミサトもスタスタと歩いていた。
 看護婦もミサトも都会出なのだ。
 そして喋り方。
 ここまで考えをめぐらせて、浩一は奇妙なことに気づきかけた。
 (?・・・)
 一閃の刹那、何かが、つながったような気がした。
 が、それ以上は壁にはばまれたように、突き当たってしまう。
 (何だろう) 浩一は並んで歩きながら、何がつながったのか、つきつめようとしたが、すれ違う人々と肩をぶつけるたびに、考えは振り出しにもどされた。
 (それにしても、暑い・・・)浩一は太陽の光をヒリヒリと肌に感じていた。 ミサトのマーキングが火傷したように、疼く。
 体調が普段通りでないことは、なんとなく理解できた。
 ここに来てミサトと出会い、今までにない体験を味わったのだ。
 ミサトの意のままに何度も射精させられ、いきなり倒錯の痴遊戯に溺れたのだ。体調のバランスが崩れても不思議ではない。
 足の裏に地面は、綿を踏んでいるようで心許ない。

 しかも、セミの鳴き声が、人混みにあっても頭の中に響いてきて、考えるのを邪魔する。 高い山に登ったように鼓膜に圧迫感を感じた。(気圧の変化だろうか)自分の息づかいが耳にこもる。
 浩一は汗をかき始めていた。 ぬぐっても、ぬぐっても、汗は噴き出してくる。
 やがて、汗にミサトの匂いが溶け出すと、祭りの中をミサトがよりそって歩いているような気分だった。 
 
 浩一の遠い記憶に、中学生の頃、この祭りを一緒に見物した女性のことが思い起こされた。
 浩一は祭りでトラブルを起こしてしまい、父が金でうやむやにもみ消した事件を思い出した。
 今の浩一が、こうしていられるのは父のおかげである。
 あの時以来、手段を選ばず事件をもみ消した父に、いつも負い目を感じ、理由をこしらえては、あからさまに避けるようになっていった。

 「・・・浩一さん・・・・・・浩一さん、」藤崎の声に、浩一は上の空で奥まで歩いてきたことに気づいた。
 目の前にたくさんの人の黒頭で埋め尽くされたその先に、天狗祭りの山車が数台、キラキラと金箔で輝き並んでいた。
 一汗かいた後の、祭り装束の青年団が周りを固め、みなグッタリと小休止をとっている最中だった。

 知らないうちに藤崎は、浩一の腕に自分の白い腕を絡め、恋人同士のようによりかかり、浩一を祭りの奥へ奥へと、誘っていたのだ。
 「すごいキンキラ・・・」
 浩一は気遣わしげに顔を覗き込む看護婦に、どうにか、笑みを返して応えた。

 二人は人波の中をジグザグに出店を覗きながら通りを進んだ。
 祭の人混みの中を藤崎と歩く。
雑踏のざわめきがひときわにぎやかになってきた。
 先ほどの山車が、転回を始めたようである。
 人だかりが、わっ、と、それを目の当たりにしようとして流れた。
 藤崎が浩一の腕に両腕で抱きついてきた。
 絡めた腕をギュッと締めつけ、その体を浩一に押しつけてきた。
 藤崎の感触は、未成熟な青い果実を思わせた。
 ミサトの感触を半熟にボイルしたゆで卵と、たとえるならば、
 藤崎は、固ゆで卵のような弾力だった。
 お菓子でいうなら、マシュマロとグミの違いだ。
 どちらも、甘いお菓子に変わりはないのだが、浩一にとっては、毒薬をくるんだ甘いお菓子であった。
 女の甘い肉感をしばし味わいながら、浩一は早くも勃起した。
 これぐらいで発情するのも、妙だが、白地に桃色の菊模様が輝いて見える。 祭囃子の太鼓に合わせるように、心臓は音頭を取り始めていた。
 浩一は喉がカラカラだった。
 ラムネ二本に代金を払うと、一本は藤崎に、一本は一気に中身をあおった。
 清涼飲料水は、炭酸の刺激が喉をヒリヒリさせるだけで、どこか別腹に吸い込まれてしまったかのように、渇きは癒えない。

 ときおり藤崎の熱っぽい視線を感じるが、目を合わせられそうもなかった。 目頭が熱く、浩一の目は、例によって目が真っ赤に充血していた。 ゆかた姿の若い看護婦と連れだって歩くのは、楽しいが、苦しくもあった。
 (早く帰りたい・・・)
 祭りのお囃子や、リズムが頭の中でグルグルと無限にこだましている。 頭の中が妄想で一杯になってきた。
 (ああ、ミサトさんに・・・)
 ミサトの肢体がうねり、追い払っても、追い払っても、頭の中をイルカのように、泳ぎ回る。 だんだんと妄想は、目の前の看護婦の姿と二重奏を奏で始め、ゆかたの胸元をしどけなくはだけた、透き通るような白い胸にクラクラと目眩を覚える。 それは真っ白に光り、想像の域を出ない。
 横目で見やれば、藤崎はラムネをそっと指に包むように胸に押し抱き、浩一の目線を目の端で意識しながら、そのラムネの飲み口を、ふっくらと桜貝のような唇で含んだ。
 ミサトとは対照的な肉感的な唇である。 軽く閉じられ隙間から真珠のような歯が微かに覗く。濡れた滴をまとった瓶がたまらなく綺麗で、見とれてしまいそうになる。
 下唇は両端からすぐに、膨らみをみせ、真ん中で割れ目が出来ている。 ミサトは絶えず笑みを含んだように、薄い唇を閉じているが、藤崎は軽く唇を開き、朝露に濡れたプラムのようなみずみずしさが感じられた。
 その唇に亀頭をそっと含まれたくなるような気分にさせる光景であった。
 骨が細く、肌は卵のようにきめ細かく、真珠のような光沢を放っていた。 汗に混じって化粧品の匂いが、鼻腔をくすぐる。
 匂いに敏感なのは、浩一だけではないようだ。
 藤崎の小鼻がヒクツいている。 目が合うと人なつこい猫のように、細められる。
 いきなり藤崎は、浩一に顔を突きだして、匂いを嗅ぐ仕草をした。
 「これ、石けんの匂いかしら・・・」
 浩一には何も感じられなかったが、藤崎はどうやら、ミサトの匂いが気になるようだ。
 石けんの匂いなど、まったくなく、これが、ミサトの匂いである。
 他の雌を寄せ付けないために、ミサトが境界線をひいているのだ。
 藤崎はひとしきり、大きく、深呼吸をして匂いを確かめている。
 女性を阻むミサトの匂い付けも、この若い看護婦には効かないようだ。ものともしない。
 「スープをこぼしたって聞きましたけど・・・」
 藤崎は浩一の襟に顔を寄せると更に鼻を利かした。
 スッと鼻を突きだして、匂いを嗅いだ。
 浩一は居心地が悪そうに目を逸らす。 居心地悪げにする浩一と目を合わすと、キラリと目を光らせ、
 「ちゃんと洗いました?」ニッコリと笑った。太陽の下で花びらがこぼれるように、白い歯がキラキラと光る。 心が和んだ。
 洗ったよ、浩一は苦笑いを浮かべながら、なれなれしく看護婦に肩をぶつけた。
 藤崎は、いい匂いがした、とてもいい匂いで、浩一は無意識に藤崎の風下に立つようになった。 髪をアップにくくったうなじは、昼間の太陽に透けるようだった。ココアブラウンにすけるうなじの後れ毛がススキのようにフワフワと揺れている。
 浩一はふと、亡くなった母の後れ毛を思い出した。
 その後れ毛はいつも、手の届かない高さを感じた。浩一は背が伸びてもその後れ毛に手が届かなかった。
 そっと触れたい気持を伝えられないまま、母は逝ってしまった。
 浩一は今、目の前の後れ毛にそっと手を近づけた。
 それは、はかなく、つたない感触で、浩一には切なく感じられた。
 藤崎は一瞬けげんな顔をしたが、その表情に喜びを浮かべ、白い歯をみせて笑った。
 藤崎は浩一に黙ってよりそうと、腕を組んだ。脇から腕にかけて、ゾクリと、くすぐったいうような快感がえぐりこまれる。
 背の高い浩一から見下ろすと、藤崎の耳を赤くした、ゆかた姿の若い看護婦は、とても小さく愛くるしく思えた。 
 浩一は興奮し、息づかいを押さえるのに目眩を感じた。
 このままこの子をバラバラになるほど強く抱きしめてしまいたい。
 突き上げるような激しい衝動に浩一の心臓はどくどくと血液をシンボルに送っている。 ミサトが履かせたショーツがきつく張り裂けそうになっているのが、痛い程わかる。 意識的に、腰の膨らみを死角へ向けようと姿勢をずらす。 燦々と降り注ぐ太陽の光が、理性を照らし出そうとするが、白昼夢に陥った浩一にとっては、明るい日差しが、目の前の淫らな欲望を網膜に焼き付けてしまう。
 そんな気持をよそに藤崎は、浩一の腕を抱えるようにしながら、人混みの中を引っ張ってゆく。
 二人は輪投げの出店の前にたどり着いた。
 「浩一さん、これしましょ」
 古くさい籐で出来た輪っかを景品にかける遊びである。
 安い景品はとれそうでも、ちょっと値の張る景品は取りにくくなっている。 と、いうよりも、とれないようにしてあるのだ。
 店のオヤジもこれまた、一癖ありそうな輩である。
 浩一があからさまに気の進まない表情をしていると、
 「私、やる、見ててね」
 「得意なんだぁ、輪投げ」
 藤崎は店のオヤジから一通り説明を聞くと、
 「昔みたいにイケルかしら」
 藤崎は真剣な表情で腰を低く構えた。
 背の低いライターを狙っていた。 体を折り曲げると、ゆかたに、くっきりと、女の曲線がうかびあがった。
 長い脚から、ヒップ、袖をまくった白い腕に、浩一は目が眩んだように、両目をほそめた。
 「エイッ」
 輪をスッと被せるように輪を投げかけた。
 一瞬ライターにコツンと当たる音が聞こえたが、間違いなく上手い。 かかった。
 「ヤター! やった!」白地に、淡いレンゲ模様の浴衣姿の看護婦がおどけて小躍りすれば、履き物がカタカタと鳴った。
 色の黒い、無表情なオヤジはつまらなそうに、景品を引き寄せる。
 藤崎がうれしそうに顔を見上げてくると、浩一はあわてて視線を戻した。
 人差し指と親指でそっと輪を持ち、慎重に狙いを付けている。
 体を低くして、上半身を精一杯伸ばしてお尻を突きだしている。
 浩一は気づかれないように、その背中から、ヒップにかけてなだらかに曲線を描いている若い女の肢体を鑑賞した。
 「えぃ」
  
 藤崎は他に葉巻をとってくれた。 葉巻は細い押し出しのアルミニュウムのケースに一本入っている高級品だった。
 軽いので、わずかでも輪が触れれば、倒れてしまう。
 藤崎が見事に輪をかけると、さすがに無表情を決め込んだ店のオヤジも、ヤラレタ、とばかりに苦笑いを浮かべていた。
 「はい、これお近づきのしるしにどうぞ」
 藤崎はライターと葉巻の入ったケースを、満面の笑みでニコニコしながら、差し出してきた。 ライターは有名なブランドのマークがあるが、微妙に雰囲気が違う。 葉巻もキューバ産と表記されているが、それだけかもしれない。 浩一は喫煙はしないが、満面の笑みを贈られたものとして、ありがたく受け取った。
 しかし、藤崎は葉巻が吸えるかと尋ねてきた。
 普段なら正直に吸えないことを口にするところだが、浩一は見栄を切りたくなった。
 「ここをカットしなくちゃ吸えないよ。 人が多いし、今は吸えないなぁ」葉巻のケースをあけて、中身を手にしてポンポンと手で弄んでいると、藤崎はクルリときびすを返し、先ほどの店のオヤジに声を掛けた。
 「おじさん、ハサミない? ハサミ!」
 藤崎の子供のような威勢のよい態度に、テキ屋のオヤジは、使い込まれた大きな裁ちバサミを貸してくれた。
 「ん〜〜、この辺かな!良くほぐして、平らにして・・・では、切ります」
いたずらっぽい目で浩一を見上げる。
 「チョッ・・・キ、イィ〜〜ン、アレ? ウンン!」
 切りにくそうである。メリメリ、と力任せにハサミを使う。 
 「切れないっ・・・ウンン!」
 「専用のカッターがいるんだよ」浩一が言っても、聞く耳を持たなかった。 藤崎はもう一度、葉巻の端を指先でつまんで、平らにつぶすと、ハサミをあてた。 ようやく端を切り落とすと、どうだ、と目を合わせ、うれしそうに笑みを浮かべている。
 「これでいい? 吸って、見たいわ、ミタイミタイ〜」
 藤崎は子供のようにねだった。
 浩一は観念して、昔、父親が吸っていたのを思い起こしてそれを真似てみた。
 興味本位で口にした紙巻きたばこと違い、葉は分厚く、木の枝を口にくわえているようだった。唇で挟んでくわえるというよりも、歯にくわえるしかない代物である。
 火を付けてしばし、火口を炙っていると、強いバニラのような匂い、と同時に自分の鼻から、濃厚な紫の煙が吹き出してきた。
 思わず浩一は激しくムせてしまった。
 「シケてる!」浩一はいいわけとも、悪態ともつかない言葉を口にした。

 それを藤崎は可笑しそうに笑いながら、浩一の背中をさすってやる。 浩一は人目もはばからず、涙を浮かべながらムせた。
 背中を優しく上下する女の手のひらが心地よく、ミサトの愛撫を思い出し、背中がゾクリと粟立った。 このままムせつづけるのも悪くない気がした。
 藤崎が浩一の手から葉巻を取ると、なんの躊躇もなく口にくわえた。
 そして、浩一を横目で悩ましげな流し目でスーッと大きく吸って見せた。 ムせる! 心配する浩一の予想を裏切って藤崎は口の端に笑みを見せると、余裕タップリに煙りを噴き出して見せた。
 それは、格好だけでなく、肺の奥まで吸い込んで吐き出した細く長い煙だった。
 蛇のように、のびて浩一の前を霞ませる。
 「ハイ、ボクゥ、ヤッテごらん?」口元に付きだした。
 浩一は一口目は必ずムせるんだと、いいわけをしながらも、藤崎の口紅がうっすらと残る吸い口を妖しい気持で口に含んだ。
 「ハイ、吸って〜〜〜」幼児扱いにされた。
 ウォッ、と浩一は、先ほどよりも更に大きくムせた。
 涙を目に浮かべ、激しくムせる浩一をなだめながら、藤崎がひとしきり楽しい時間を過ごし笑っていると、 一陣の風が、ゆかたの裾を揺らした。

 燦々と降り注ぐ光の矢が突然やんだ。 あたり一帯が大きな傘の陰に入ったようにである。
 提灯や出店ののぼりが大きく揺れる。続いて湿った空気が周囲一帯に流れ込んできた。
 一瞬の静寂に包まれ、天空に不穏な雲の乱れが陰を落とした。
 轟く雷鳴が空気を震わせると、見る見る遠くの景色が霞みだし、
 激しい雷雨が猛スピードで迫ってきた。

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メイド 魔性の快楽地獄