転 男転がし
それは、はげしいにわか雨を伴っていた。
この地域独特の山から吹き下ろしてくる突風が、看板や提灯を激しく揺らし、雨を地面に叩きつけてゆく。
大粒の雨が風に煽られると、祭りは蜘蛛の子を散らしたように混乱した。
昔は天狗様の人扇ぎと呼ばれ、迷信にもなった突然の風。
天狗はこの風で、村の若い女をさらったといわれる。
近代の気象学でみても、山間のこの地方は天候が突然変わる。
北側に拡がる田園風景が霞むと、今のように、山の向こうから雨雲を引き寄せ、人々を驚かせるのだ。 それは、まるで何らかの意思に従うかのごとく押し寄せた。
天狗の仕業と言われるゆえんである。
車を近くに止めている地元の人間は、一目散に乗ってきた車に駆け込んでゆく。
浩一の乗ってきた車は、街のはずれ、隣の駅に近いところに止めてある。
浩一が雨をしのげる先を探して、周りを見渡した時、おもむろに藤崎が手を握ってきた。
浩一は一瞬ではあるが、全てを失った。
(何をすれば?)
緑の海のような田圃から山々に向かって、カエルの声がこだまし、森の中のセミ達の鳴き声を覆い尽くしてゆく。
激しい雨は、つぶてのように、人々に降り注いだ。
ゆかた姿の女達にも叩きつけられる。
しかし、地元の女達であれば、こういった天候の変化には慣れっこで、若い娘達にいたっては、歓声をあげ、笑みを浮かべながら、雨をしのげるひさしに向かって駆けてゆく。
混乱が顕著にみられるのは、観光客達であった。
勝手の分からないまま、右往左往するより他なかった。
カメラが、携帯電話が、と、水を嫌う機器をかばいながら避難先を探している。
雨の中、祭り装束の若い青年団の面々から、どよめきがあがる。
若い女達のゆかたが雨で透けだしたのだ。 みな、ゆかたは肌に吸い付き、下着が透けだしている。
女達も男の興奮ぶりが面白いと見えて、ことさら黄色い歓声をあげて雨の中を小走りに行き来する。
「キャ〜」
藤崎も走り出した。
後ろから追いかける浩一の目には、浴衣から透ける白い下着の形がはっきりとわかった。 ヒップラインを美しく見せるための細いショーツに違いない。 腰帯のすぐ下に透ける、小さな三角の生地に肌色の二つの臀筋が、はち切れんばかりに押し寄せ、艶めかしかった。
「浩一さん!」藤崎が振り返ると、後ろ姿を追いかけていた浩一は、慌てて遠くに視線を逸らした。
二人はひさしに加わろうとしたのだが、既に大勢の人々に溢れ、雨をしのげそうになかった。 ふと見ると、離れにバスの待合所が見える。 ひさし付きの、最近建てられたものに違いない。
そこは、昨日、浩一とミサトが初めて出会った場所である。
その下も人が寄り集まっていたが、今この雨の中を、バスが向かってきていた。
祭りの開催中に合わせた臨時バスである。
浩一の遠い記憶によれば、バスは乗ってきた車の近くを通る。 バス停までは、ほんの少しである。
「バスが来た!」
今度は浩一が、藤崎の手を強く握り返し、バスに向かって駆けだした。
浩一に引っ張られる藤崎は、浩一の意図を図りかねた。
藤崎が、後ろから浩一の顔を覗こうとしたところで、浩一が振り返った。 その表情はほんのりと赤味がさしていたが、細められた目がりりしかった。
「と、隣の駅に車があるので、そこから家まで送ります、雨がひどい、バスに乗ろう!」
「えっ? あの、」叩きつける雨のつぶてのさなか、藤崎は聞き取りにくかった様子であったが、雨に目を伏せると、黙って後に従った。
ザァザァと波音のような雨の中、小走りにバスに駆け寄る二人に、次々と他の観光客も加わってゆく。
二人がバスにたどり着く頃には、バスの乗り口は満員状態であった。
二人ははぐれないように、押すな押すなの状況から、一気に車内に押し入った。
行く先も知らないような観光客もバスに乗り込もうとした。
その間も、風を伴った雨は一層強くなった。
バサバサと雨が、地面を激しく打ち鳴らし、地面に水しぶきを上げてはね回っていた。 強い突風に煽られると、後ろから、早く早くと押され、浩一と藤崎は満員のバスの中、更に奥へ奥へと押しこめられていった。
バスの中は暗い。 天井が雨に叩かれ、重奏な響ききを醸し出していた。
浩一と藤崎は、手も挙げられない詰められ方で、向かい合わせになっていた。
バスは発車したいようだが、入り口にまだ乗れない人が殺到する。
更に車内はギュウギュウ詰めになった。
前のほうで、誰かが舌打ちをする。
みな濡れており、体温の上昇によって、バスの中は蒸し風呂状態に蒸せかえっていた。
浩一と藤崎も例外ではなく、向かい合った状態でどんどんと体温が上がり、お互いに、のぼせたように顔がほてっていることを知った。
運転席の窓は、叩きつけられる水しぶきで、滝の当たっているようだった。 囂々と天井をならす雨の中、バスは田舎のあぜ道をノロノロと走り出した。
舗装中の田舎道を、泥に足を取られまいと、バスはゆっくりと進んでゆく。
ここからバスは町を抜け、隣駅の近くまでヘンピな田舎道をたどることになる。
まだまだ開発途中の狭い道のりを、上り坂、下り坂、丘を迂回しつつ、曲がりくねった道を進んで行くのだ。
満員バスのクラッチ操作に、ウンザリ気味の運転手にかわり、テープが抑揚のない女性のアナウンスで行き先を伝える。
すし詰めのバスの中で、二人の濡れた衣服が合わさり、暖かくなってゆく。雨水が皮膚の上を足下に向かって伝ってゆく。
ポタポタと滴の垂れる音が、あちこちから聞こえる。
それは、車内に溢れた乗客の一人一人から垂れる雨水の音だった。
浩一は、藤崎と向かい合ったまま、息がいつまで経っても落ち着かないのが、疎ましかった。
藤崎も同様、真っ赤に頬をほてらせ、肩を上下させている。
藤崎と何度も目が合う。 目が合うと、藤崎はゆっくりと目を伏せるので、浩一も窓の方に逸らす。 戻すと、また見つめ返している。 そしてまた目を伏せる。 その繰り返しだった。
雨の中に見える家々は、古いのから新しいものまで、様々だった。
田圃があったり、空き地、新築中の家。 その軒下に雨やどりする人。 転々と小走りに移動する人、傘を差して小さくなって歩いている人、様々である。
観光客は行き先を口々に話し、車内は身動き出来ない状態だった。
次の停車先で降りようと誰かが口にすると、降車ボタンが押された。 バズは次のバス停で止まるが、雨が降り注ぐ中、ほんの五、六人が降りかけたが、やめた。 それに新しい客が乗り込もうと押し入ってきたので、バスは押すな押すなのもみ合いになり、二人は更にクッつきあう格好となった。
誰かが動けば、どこであっても、車内全体に伝わってゆくような状態だった。
時折、藤崎の体が、疼きをはらんだ体に強く押しつけられる。
お互いに、異性の骨と肉の違いを、皮膚の下で感じさせられた。
扉を閉めるとバスは再び動き出した。 藤崎の胸が、浩一の体に柔らかく押しつけられたままで、それは、人いきれで激しく上下していた。
ハッハッ、と唇を薄く開いて息をしている。
藤崎が、浩一を見つめながら、ゆっくりと鼻を近づけてきた。
近づいた藤崎のオーラが、ますます押さえがたい欲情のうねりをともなって伝わってくる。
いつもと違った。 満員電車に乗って、異性と向かい合っても、こんなに気持にはならなかった。
ましてや、目眩にも似た昂揚感など体験したこともない。
淫らなメイド、ミサトに情欲をタップリと刺激され、隠されていた潜在的な欲望が開拓されたのだ。 体がどうしようもなく、疼いた。
藤崎も、バスに乗ってから様子がおかしい。 この淫らな感覚は、そばにいる者にも伝染するのだろうか。 閉塞した室内で、感情が周りの人間にまで伝わっていく話を、浩一は思い返していた。
浩一は、息がかかる程、くっついた傍から、藤崎の熱い視線を感じた。 女の熱い視線を意識しだすと、ますます顔がほてってくるのが感じられた。
藤崎は、何度も唇を湿らせ、言葉を切り出そうとしている。
(ん?)と浩一は小首を傾げて、耳を傾けてやった。
藤崎がヒソヒソと小声で耳元に向けて話しかけた。
「あの、なにかつけています?」
「え?」
「とっても変わった匂い。 あの、いい匂いって意味。 ハーブ? です?」
浩一はクラクラと目眩を催すミサトの移り香を、女の藤崎ならどのように感じるのか、不安になった。
「なにも・・・あ、石けんの匂いかも・・・ 」
石けんですか、と、藤崎は小さく相づちを打ち、しばし黙り込んだ。
ざわざわと他の乗客の話し声の中、浩一が雨の音に聞き入っていると、
「その、なんの匂いを使ってるんでしょうか? 」再び、藤崎が耳元に話しかけてきた。
藤崎の目が、下からジッと見上げている。
「は、ハーブだと思うけど、よ、よくわからないな、そ、そんなに変わった匂い? 」
「本当に、変わった匂い・・・ 」囁くような小さい声、息づかいが浩一の耳元をくすぐった。
「わたしも試してみたいな・・・ この辺で買えるんですか? 」
(柔らかい・・・そして熱い・・・)浩一はべったりと押しつけられた藤崎の肉感に、身悶えしそうだった。
「さ、さあ、ミサトさんの見繕いかもしれないけど、あ、あぁ、あか抜けている、よね・・・」
藤崎は、浩一の口調を気にすることなく、べったりとくっついたまま、耳元に話しかける。
「石けんも? メイドさんが選ぶ? 」藤崎は目を丸くして関心を示した。
「本上さんって、何でもこなすんですね 」浩一はウンウンと相づちを繰り返した。
これ以上は、話しのつじつまが合わせるのが、面倒で、切り上げたくなった。
「と、とても、ゆっ、有能なメイドさんってことかなっ」浩一は、目をつむって顔を横に向けた。 下半身の高まりを鎮めようとして。
「フ〜〜〜ん」話半分で藤崎は相づちを返し、ス〜ッと、息を吸い込んでいる。
匂いの虜になったように、うっすらと目の回りを赤らめ、浩一にそのまま身を預け、薫りに浸っているようだった。
浩一の顎の下に、藤崎の濡れた頭がコト、ともたれると、、すがすがしい花の匂いがした。
(綺麗な髪だ)目の前に若い女に浩一の目をみはった。
こんな綺麗な髪の女性がいるのか。
滴の垂れる髪をみているうちに、例の疼きが強くなる。
「フ〜〜〜ン・・・」藤崎の声は鼻声がかって甘い響きを含んでいた。
(ああ!)
そのわずかな振動さえ、肉体の疼きをかきたててゆく。
浩一は、髪に伝う滴を味わっている妄想を、必死で振り払おうとした。
(ああ〜、まずい、まずい)
股間にどんどん淫らな欲望が集まってくる。
このままでは、誰の目にも明らかである。
浩一は頬がほてっているのが自分でも分かっていた。 息を鎮めようとしても、叶わない。
息を止めれば尚、顔がほてってゆく。
藤崎も浩一の息使いにひきこまれるように、だんだんと目が潤み、息づかいが早くなった。
浩一が息を詰まらせると、藤崎も息をしていないようだった。
浩一が息をすると、その白んだ小さな小鼻から、見えるような深呼吸が感じられた。 藤崎の顔は、雨の滴か汗で玉のような露がキラキラと精細を放ち、浩一は真珠のような若い肌の輝きに見とれずにはいられない。
藤崎がむずがるように、体をくねらせると、柔らかい太股が、浩一の股間をぐにゃりと圧迫した。
「あ・・・」クスンと藤崎が鼻を鳴らした。
(これ以上寄らないで・・・) 次の瞬間、亀頭が滑らかな生地の中を滑り、ツルリとミサトの下着からはみ出した。
(あっ!)ビリッと、思わず声が漏れそうになる快感に股間が震えた。
上向きになったシンボルは、ズボンをはっきりと突き上げていた。
(ああ・・・)一瞬の刺激にシンボルはヒクヒクと震えていた。
と、藤崎も腹部でひくつく異変に気づいた。
「!」藤崎がシャックリをもよおしたように、その柔らかい肢体をこわばらせた。
一瞬だけ、目をまん丸に見開くと、すぐさま浩一から目を逸らした。
みるみる耳まで真っ赤にして赤面している。
(ああ、いい、こんな子を優しく奪ってみたい)
「あ、こ、・・・コ・・・サン」小さい声で何か言おうとしているが、唇がこわばっている。
「私・・・」藤崎はあえて、離れようとはしなかった。 熱い浩一の高まりの押しつけられるのをジッと、甘受することにしたのだ。 藤崎は花心の奥から熱い汁がみるみる浸みだしてきているのを感じていた。
それは、先ほどからヒタヒタと下着を潤し、花心に張り付いた下着のあて布をぬめらせていた。 花心が疼いて仕方がない。 じっとしていられなかった。 身をよじれば、よじるほど、花心には甘い刺激となって、淫らな気分が高まってくる。
目の前の熱い雄の高まりを、この奥で感じたい。 思いっきり味わってみたくなった。
その気持の変化を、藤崎は浩一に気づいてもらいたくて、あえて、自分から浩一の雄の本能にアプローチを仕掛けてみた。
顔が熱く、湯気が立ちそうだった。
(ブラをしてこなくてよかった・・・)ゆかたの下はショーツ一枚きりである。 浩一に気づかせたくて、藤崎はことさら、その胸を浩一の胸板にこすりつけてみた。
乳首はすぐに、堅く尖り、コロコロとゆかたの下で転がり、ウットリするような快感が背中をゾクゾクと震わせた。
思わず甘い吐息が漏れる。
「フ・・・ンン 」押さえたつもりが、かえって鼻にかかった甘い喘ぎになってしまった。
チラリと浩一を見上げると、目をつぶってジッと横を向いている。 必死に理性を振り絞っているのだろう。
藤崎は年上とはいえ、りりしい顔立ちのこの青年が可愛く思えた。 少し心に余裕が生まれると、目の前の男を挑発する優越感を味わってみたくなった。 藤崎は、浩一の横顔をジッと見据えながら、少しずつ、少しずつと、脚を浩一の両足の間に差し込んでゆく。
「ンヌッ」浩一から押し殺した声が漏れる。
浩一は両脚の間に、藤崎が、柔らかい女の太股を差し込んでくる気配に動揺を隠せなかった。
目を開き、驚きの表情で藤崎の顔を覗いた。
目を丸くしている浩一に、藤崎は顔がほころぶのを見られまいと、目を伏せた。
浩一には、赤くなった目元を伏せるその眼差しが、愛おしく感じられた。
(フフ、何か楽しくなってきちゃった・・・ )
藤崎は浩一から発せられる匂いに、異常な高揚感を覚えた。 息を吸うたびに胸が高鳴る。
それが、何かは知っていたが、あえて、浩一に尋ねたのだ。 今、目の前の男が、どういう状況に陥っているのかも把握している。 藤崎は、この匂いが好きだった。 好きでたまらなかった。
この匂いは藤崎にとっても重要な匂いであった。
トラウマとなっていると言えるかもしれない。
くっついたままで、二人は端のほうへと移動した。
か細い未成熟の肢体が浩一の胸にじっとりと体温を伝えてくる。
堅くなった乳首は、浩一の肋骨の当たりを転がっている。
藤崎は周りの乗客がみな、二人に背を向けているのをよしとし、浩一を更に煽ってみたくなった。
自分の堅くなった乳首を、浩一は気づいているはずである。 気づかない振りをしているのだ。
(どこまで我慢できるかな・・・ )
顔の火照りに半ばぼおっと、なりながら、藤崎は更に、浩一にその身を押しつけていった。
浩一からみた藤崎は、耳を赤くして汗をしたたらせており、雨に濡れた髪は、額に張り付き、滴をたらしている。
それをぬぐってやりたくなるが、両手は人に挟まれてかなわない。
吊り革を掴むことさえかなわなかった。
その手に藤崎の手が触れてきた。 始めは手の甲を擦りつける程度が、浩一の目を見上げたまま、ゆっくりと指を絡め、手のひらをくすぐっていたが、そのまま握りしめてきた。
浩一は、ぼうっと熱い眼差しで見つめ返していた。
その浩一が、ウットリしたまま、握り返してきた。
浩一の熱い視線を受けながら藤崎は、濡れた浴衣の下で、太股を熱い滴が伝うのを感じた。
汗かもしれない。 汗ではない、ましてや、雨水でもない。 それは、熱いだけではなく、粘りを帯びている。
藤崎が、重心を移動させると、トロリ、と、それは、ゆっくりと内ももを伝いだした。
(垂れちゃったン・・・ )
藤崎が、思わず苦笑いを浮かべると、なぜか浩一も苦笑いで応えた。
浩一の心に、ゆかたの糊の匂い、女の汗、香水、天井に響く雨音のリズム、息づかい、そして女の肉感、全てがひとつの流れとなった洪水が、揺さぶりかけてくる。
藤崎は、体温の上がった肉体の一部に、更に熱い男の火照りを味わっていた。
ピク、ピク、と、藤崎の下半身が意思とは関係なくそれに応える。
感情の変化とは次元の違う、肉体の引力が二人を引きつけてやまない。
今日出会ったばかりの二人は、図らずも大勢の乗客によって、たった一つの感情に結ばれつつあった。
バスの外はセミの鳴き声がやみ、田圃を抜けた田舎道は、小降りになった雨音と、バスの低いエンジン音が、人々のざわめきだけをひときわ際だたせる。
太く、熱い血潮をはらんだ男の動脈に、藤崎の中のドス黒い女の性が、目覚めだした。
女の体は、男の体を受け入れやすいよう、一層柔らかくほぐれ、男の体はそれに呼応するように、堅く熱い欲望をたぎらせてゆく。
「ア・ン・・・」藤崎がまた身をよじると、襟元からフワリと女の体臭が立ちのぼる。
浩一は、その匂いが、甘酸っぱさを帯びてきたことに気づいた。
発情のサイン。 雄の本能に訴えかける雌の誘臭である。
柔らかく、火照っている女の肢体は、男の全てを取り込んでゆくようにほぐれてゆく。
浩一は藤崎の肉体の変化にとまどいを覚えた。
既に、浩一の脳裏には、ミサトの肢体が何度も浮かびあがった。
それは、妖しくヒップをくねらせ、浩一の目の前一杯に拡がる。
浩一はその幻覚を何度も振り払ったが、いくら振り払っても、すぐ、また、その後から浮かんでくる。
ミサトの悩ましい流し目、その鳶色の瞳の奥に吸い込まれるあの感覚が生々しく蘇った。
股間が妖しく疼きだし、目の前が真っ赤に染まる。
ミサトの指が全身を這い回るような感覚に、体毛がざわめきたち、ミサトの匂いすら鮮明に思い出している。
藤崎の腹部で、ミサトの下着に包まれた浩一のシンボルが、ジクジクとそそり立ち始め、その先端に、熱い湿りがジクジクと浸みだしてきたのを感じると、いても立ってもいられなくなった。 浩一は口を半開きにして、ミサトの幻想に溺れそうになった。
激しく息をし、胸を上下させ深呼吸を繰り返すと、ミサトの顔が藤崎に顔に姿を変えた。
我にかえると、目の前の藤崎が、上気した顔でジッと見つめてきている。
もう、ミサトでも藤崎でも、どちらでもよかった。
その目は潤み、薄膜がかかったように、弛緩している。
ミサトの匂い。 体温があがり、ミサトの匂い付けによって、体に染みこんでいた匂いが発散され始めている。
この匂いが脳幹帯に直接作用し、欲情させる。
藤崎もこの匂いに感化されているのだろうか。
藤崎は、浩一の様子に見とれているうちに、女の雌しべがジンジンと熱く潤んでくる淫らな感覚を味わっていた。
浩一に近づいたときに感じた、抗いがたい惹き付けられるような気持に従い、自分の体にどんな変化があらわれようとも、素直に受け入れてしまおうと心に決めていたのだ。
浩一でなければ、理性を振り絞ってでも、抗いもするが、浩一の前だからこそ、藤崎は、女の性を開放した。
素直に開放すればするほど、花芯が潤い、甘く、ウットリしてしまうほど疼く。
シンボルに絡まった陰毛がひきつり、痛みでさえ、口の中が溢れる程の唾液を分泌する。
手でシンボルの位置を直したくても、二人の間に一分の隙間もない。
二人がもみ合えばもみ合うほど、頭に淫らな欲情が流れ込んでくる。
藤崎の息が熱い。熱く湿っている。その息が甘い生々しい羽の感触で浩一の首にまとわりつく。
二人とも汗と雨の滴でじっとりと濡れ、体温があがると、その発情した匂いが周囲を汚染してゆく。
まわりの人々もその匂いを無意識に感じ取り、感化され、車内はひっそりと、静まり、バスの天井を打つ雨音だけが、やけに大きう感じられた。
二人の感情が車内に拡がり、見ず知らずの者まで巻き込んで、車内には切ない溜息が漏れだしていた。
藤崎は上気した顔で目を伏せると、浩一の太股に手をそえ、ゆっくりと撫でている。
押し返そうとしているように、とれるが、それは愛撫に等しかった。
ゆっくりと、藤崎の腰が何度もくねる。その耽事な感触に、ズボンの下のシンボルは揉まれるように、女の柔らかい肉感に歓喜していた。
「ああ・・・浩一さんって・・・」何を言おうとしているかは、図りかねるが、その感情は浩一にも伝わった。
浩一も藤崎を欲しいと思っていた。
堅くなったシンボルがズボンの下で、ショーツからはみ出していた。亀頭の先がズボンの生地にこすれ、尚こらえられない性感となる。
浩一は我慢が出来なくなった。
今、肉体を寄せ合っている女の感触と、ミサトの匂い、ミサトのマーキングが全身で呼応し、ジッとしているのも困難な体の疼きを覚えていた。
浩一は思いきって押しつけられた肉欲に腰を付きだしてみた。
すると、藤崎はキャッチボールをするように、その動きに応えてきた。故意か偶然か、その行為に、頭の中の淫らな粘液がはじけた。腰が勝手に何度も藤崎に擦り寄っていく。 藤崎の体もそれに何度も応える。
二人はバスの車内で下半身を淫らに前後させ、お互いの感触を貪るような行為に夢中になった。
それは、気づかれないように、小さく密かに行われなければならない。
息を必死にひそめ、二人は秘蜜の快楽を分かち合った。
陶酔。トランス状態に近い恍惚感に包まれた。
二人から、陶酔の波紋が拡がってゆく。
二人を中心として、世界が拡がってゆく。
たまらなかった。
藤崎はそんな浩一の表情を、興味津々で見つめながら、擦りつけた腰をゆっくりと、動かした。
柔らかい肉に食い込む、堅く熱い雄の象徴を取り込むように擦りつけてやった。
ジワリと股間に痺れるような震えを覚え、下着を濡らしてゆくのが、感じられた。
「ウンン・・・」小さく喘ぎ、藤崎はゴシゴシと腰を擦りつけてきた。
(ああ、い、イッてしまう! )思わず藤崎の手を強く握り、やめようとしたが、藤崎が離れない。
「フンン・・・フン・・・」もう、明らかに我を忘れて痴猫の快楽に耽っていた。
腰を引こうとしても、後ろから押し返されてしまう。
(ああ、ああ!)浩一は藤崎の手を握ったまま、腰の動きを止めさせようとした。
「アン・・・」我にかえった藤崎がゾクッとくるような流し目で睨む。
藤崎が悩ましく体をよじると、女の肉感が、無情にも、浩一の神経を煽る。
(う、動かないで・・・・)これ以上刺激は、生理的な顛末を迎えてしまいそうだった。
バスはいよいよ、隣駅に近づいてゆく。
と、まるで、トンネルに入ったように、雨音がやむ、つづいてトンネルを抜けたかのように、車内に明るい日差しが差し込んだ。
バスは、幻影から醒めたように、雨を通り抜けた。
バスの扉があくと、乗客はゾロゾロと降りだした。
みな、何かを感じ、感化されたように、同じ足取りでバス停に降り立つ。 ぽつぽつと大粒の雨がまばらに落ちてくる。
しかし、見上げれば雲の間から明るい青空が覗いている。
アベックは、明らかにその気になり、周りを見渡している。目がさまよっていた。
寄り添いながら、人目を忍ぶように、歩いてゆく。 浩一と藤崎もそのアベックの一つである。
バスを降り、車に向かっていると、雨上がりの新鮮な空気で気分が変わった。 はげしい雨だったので、気温も下がったようだ。涼しげとは言えなくも、風がそよいでいた。
二人とも、黙ったままで、田圃に囲まれた田舎道を並んで歩いた。
車にたどりつくと、藤崎が切り出した。
「わ、わたし、看護婦だし、あの、あまりそう言った生理現象も慣れっこだし、あの、よくあるんですよねウン、あの、よくあるんです、でも、あの、私、気にしていませんから。 あの、私何も見ていませんでした。その・・・」
後ろを向いて一人でまくし立てている。
その一途な動揺っぷりがたまらなくいじらしい。
藤崎は背を向けてこの場を切り替えようとしていたが、浩一の視線は藤崎の透けた浴衣に釘付けであった。
透けたヒップのショーツからせり出している肉感にもう、理性は限界であった。
赤くなった耳もたまらなくそそられた。
後ろから肩を両手に抱くと、藤崎は飛び跳ねるように、振り返り、
「あっ」と藤崎が声を漏らした。
「う、後ろから、ひ、卑怯です、」
押さえられそうにない。 何と言われようが、押さえられるわけがなかった。
その体は、弓をかき抱いているような、細く張りつめた肢体であった。浩一は腕に更に力を入れた。
「い、痛い・・・」浩一の隙をついて藤崎は右腕を抜いた。
その腕は拒絶には使われず、浩一の首に巻き付いた。
「・・・さんを嫌いになれたらいいのに!」顎を仰け反らせ、後ろの浩一に振り返るや、藤崎は唇を重ねてきた。