転 男転がし

 遠くで雷鳴が微かに聞こえる。 それは教会の鐘のように平穏な響きだった。
 セミがにわか雨のやむのをまちかまえていたように、一斉に啼き出した。
 セミの鳴き声が雨音のように、カエルの声とわたりあう。
 太陽は、柔らかい日差しを投げかけ、虹を描いていた。
 山肌に近い、薄暗い木立の脇、耳を聾するようなセミの鳴き声が溢れる中、二人は、お互いの唇の中で一つになろうと欲するように、ただひたすら、異性の唇をむさぼっていた。

 浩一の首に巻き付いていた藤崎の腕が、背中をつたい、腰にまわされた。
 藤崎はひっそりと日が暮れるように、静かに大胆になってゆく。
 藤崎は、体をひねって浩一と完全に向かい合うと、浩一の太股を手のひらで愛撫しだした。
 
 時間の感覚が二人から抜け落ちていた。
 お互いの唇に感じるモノが全てだった。
 「ん! 」浩一の藤崎をかき抱く腕に、動揺がきざした。
 (あ・・・)
 驚くべきことに、藤崎は大胆にもズボンの上から浩一のふくらみを触ってきた。
 細い華奢な手が柔らかく固まりを握ってきた。
 その感触に浩一は思わず、ウッ、とうめかずにはおれなかった。
 藤崎が甘い鼻声を漏らす。 笑ったのかもしれない。
 手を、さりげない動作で浩一の股間に潜らせ、股間の奥から手前を幾度かなぞり上げていると、指先をズボンのジッパーをつまんで、ゆっくりと引き下げてゆく。
 半分までさがったところから、藤崎の指がズボンの内側に滑り込んできた。 柔らかく、暖かい指の感触がしんぼるを捉える。
 そのまま、外に引き出そうとするうちに、ジッパーは全開状態となり、手首までズボンの中に潜り込んだ。
 藤崎のしなやかな女の指先がミサトのショーツに触れた。
 浩一は慌てた。 見られたら最後である。
 「う・・・」
 藤崎のうなじに手をまわし、頭を固定した。
 藤崎が浩一の下半身を見ないようキスで口を捉え、片方の手で股間を蠢く女の手指を引きはがそうと試みた。
 が、快感に抗えない。 浩一が手から力が抜けた瞬間、女の柔らかい指は、スルリとショーツをくぐっていた。
 ミサトの下着からはみ出しているシンボルに、藤崎の指先が触れた。
 「お・・・」
 きゅん、と腰が痺れ、力が入らなくなる。 このまま成り行きに身をまかしてしまいたくなったその時、車が、バサバサと水溜りを跳ね上げながら通り過ぎた。
 「ん!」
 われに返った浩一と藤崎は、どちらからともなく、車のドアに足を運んだ。
 ベンツは、浩一が近づくと、エンジンキーの合図に小さなビープ音で応え、ドアロックを解除した。
 藤崎を助手席のドアへエスコートしてやると、だまって浩一に従った。

 遠くで雷鳴がで鳴り響くと、浩一も迷うことなく、車に乗り込んだ。
 ベンツに乗り込んでドアを閉めた途端、セミの声も、カエルの声も消え失せてしまった。 革張りのシートが濡れた衣服と擦れ、くぐもった音だけが響く。 密閉された録音室の中で、好感度マイクが拾ったように、衣擦れの音だけが、高級車の車内の音全てであった。

 藤崎は、遠慮がちに身を縮こまらせ、シートを手のひらでぬぐう。
 「これ、革張りですよね・・・」
 「気にしないで、乾けば元通りですから・・・」
 トロンとした眼差しの浩一は、運転席で衣服の皺を引っ張っている。
 ゆかたと違い、浩一のチノパンツは透けることがないが、水を吸って淡いベージュが濃いココアブラウンに染まっていた。
 浩一がシートで体をずらすと、車内にギュウッと、大きな音がした。
 「すごい音・・・」
 浩一も決まり悪そうに苦笑いで応えた。
 二人が少し身じろぎしてもシートは身悶えるような音を漏らした。
 それは、肉体のうねりを連想させる、卑猥な音に感じられた。
 車内は路上に止めておいたおかげで熱かった。
 体温が上昇し、二人の衣服はどんどん蒸れてくる。
 それは、汗の分泌とともに、気化し、みるみると車内に充満し、窓ガラスをくもらせてゆく。
 浩一の体から発散されるミサトの匂いと、藤崎の若い体から放出される女の匂いが混ざり合い、二人ともお互いの分泌しあう媚薬にボォッと、気が遠くなりそうだった。

 パシャパシャと水たまりを打つ音ともに人の足音が車の窓を通りすぎてゆく。
 水蒸気で曇ったウィンドウには、ボンヤリとその黒い陰が通り過ぎる。 チラリと立ち止まる様子をみせたが、車内に男と女がいるのがわかると、足早に遠ざかってゆく。
 二人とも一瞬沈黙したが、浩一が再び身じろぎし、イグニッションをまわし、デフレクタを起動させた。 ゴウ、とオートエアコンが連動し、車内の空気を除湿してゆく。
 同時にカーラジオが、午後のクラッシックアワーを受信した。

 テンポのいいパンフルートの演奏だった。
 車に入って二人はお互いのきっかけを探っていた。
 いったん車の両側に分かれて、車の中でお互いが並ぶと、どうやって続きを始めたものか、わからなかった。
 車の外も気になる。 田舎道とはいえ、祭りの前で、人の行き来がにぎやかであるようだ。
 
 藤崎は巾着袋から、タオルハンカチを取り出すと、自分の頬をそっとぬぐった。
 浩一と目が合うと、微笑し、手を伸ばして、浩一の額から頬を撫でるように拭いた。

 ほんのりと藤崎独特の香水の匂いが嗅覚をくすぐる。
 浩一はハンドルから片手を離すと、藤崎の白い手をそっと、包んだ。
 藤崎はそれをニッコリと笑ってなすままにさせた。
 藤崎の手が浩一の唇をそっと、なぞる。
 
 浩一はその手を握りしめた。 クシャクシャになりそうな繊細な手であった。 少し力をこめると、その手は柔らかく浩一の手の平をくすぐり、握り返してきた。
 浩一はその手に軽く口づけをした。
 藤崎はジッと目を見つめたまま、ゆっくりと、顎を突き出し、唇を軽く付きだしてきた。
 ピンクのみずみずしい肉感的な唇から白い歯が覗く。
 歯は真珠のように、うっすらと光沢を帯び、その光りに吸い寄せられるように、浩一は唇をあわせた。

 藤崎の手が肩に置かれ、その手は浩一の顎を両手でそっと抱きかかるように添えられる。
 暖かい指先がウットリとするような滑らかさで頬を撫でる。
 車の傍を往来する人々の視線も、気にならなかった。二人は曇ったガラスに遮られた車内で、常識の流れに逆らうように抱き合ってキスをしていた。
 二人の股間が、動悸を刻むように、激しく痙攣し、頭には血が昇り、理性が飛んでしまった。 人目を避けるなど思いもしない。

 今ここでしないと、気が狂いそうなほど高ぶっていた。
 それは、藤崎も同じだ。 初めてあった時からは想像もつかない態度で浩一の激情に応じた。

 浩一は成り行きで舌を突き出すと、藤崎の唇はなんの抵抗も見せず、受け入れた。
 柔らかい唇を通ると、女の舌が出迎えに現れ、浩一の舌先を歓迎した。 二人の間で異性の舌が出会い、一つに結ばれた瞬間、全身に波動が伝播し、全身でお互いが契ろうと合わさった。
 藤崎の方が、身軽であった。運転席に向かって身を乗りだし、浩一の唇をむさぼった。
 スイッチが入ったように、大胆になった。
 二人は遠慮なくタップリと唾液をまぶしながら互いの舌を絡めて、抱き合った。
 とうとう、藤崎は浩一の座席に乗り込もうとしたが、ハンドルが邪魔をする、浩一は黙ってシートのアングルロックを解除した。
 高級車らしく、シートは音もなく、ろうそくをこすったように、ゆっくりと、リクライニングしてゆく。
 それを焦れったいとばかりに藤崎は、浩一にドサリと覆い被さってきた。
 抱きつく女の肉体を、浩一は、手のひらから指の先まで食い込ませ、両腕一杯に抱きしめて精一杯味わった。

 藤崎はゆかたの裾を、自分でまくり、太股をグイグイと浩一の股間に擦りつける。
 「フンンッ、コウイチサン・・・・・・ 」
 もはや、発情した雌そのものの興奮ぶりで、ゆかたはバラバラにはだけている。
 「コウイチサン! コウイチサン・・・・・・ 」
 柔らかい女の感触に浩一は気が遠くなるほど痺れた。
 
 だが、藤崎の手がズボンの上からシンボルをとらえると、身につけているショーツのことを思い出し、我に返った。
 しかも、脱ぐようなことになれば、全身にミサトのマーキングがある。
 これを見られたら、藤崎の反応は想像にかたくない。
 しかし、藤崎は完全に火がついている。 メラメラと女の情火をたたえた目で、浩一の心境の変化などおかまいなしに、身をくねらせる。

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メイド 魔性の快楽地獄