転 男転がし
「・・・サン・・・ 」
遠くから誰かが声を掛けている。
「コウイチサン・・・・・・ 」聞き覚えのある女の声。
頬を暖かい風が撫でてゆく。
皮の匂い。
「浩一さん、 」浩一が目を開くと、藤崎が覗き込んでいた。
「大丈夫ですか? 」
浩一は軽く咳払いをして頭を起こすと、自分が助手席にいることに気づいた。
服は元通りになっており、シートベルトがきつく食い込んでいた。
「着きました 」
藤崎はニッコリ笑ってエンジンを切った。
体をズリ起こして車窓の外を見ると、そこは、一軒家の庭の中だった。
キョロキョロとあたりを見回す浩一に藤崎は目を細めた。
「浩一さんったら眠っちゃったんですよ、あのまま・・・ 」
「だから、私が運転代わったんです 」
そうなのか、浩一は頭をハッキリさせよとうなじを撫でさすった。
腕時計をみると、四時をまわったところだった。
しかし、頭はグラグラとふらつき、スッキリしない。
熱があるように、全身が怠く、皮膚の上を蟻が這い回っているように、悪寒が走っていた。
浩一は思わず自分の胸をかき抱くように、両腕を組み、悪寒を振り払おうとしていた。
「大丈夫ですか? 」そんな浩一に藤崎は、気遣いを見せた。
藤崎はしわになったゆかたをあわせ、帯を締め直していた。
ほんのりと上気した頬に、結っていた髪は解け、今は長い髪を肩まで垂らしていた。
黒い艶やかな髪の毛が顔を小さく見せ、大人びた色香を放っていた。
耳が高山に登ったように圧迫され、良く聞こえない。
気圧の変化による突発性の難聴だろうか。
しかし、全身の皮膚を覆うこの不快な悪寒はなんだろう、浩一は雨にあたって風邪を引いているのかも知れない、と思った。
「歩けますか? 」藤崎が車を降りて、助手席のドアを開け浩一に肩を貸す。
浩一はウンウンと黙って頷くだけで、藤崎にもたれて千鳥足で歩き出した。
この田舎ではあまり見られない真っ白な豪邸だった。
浩一の父の屋敷には及ばないが、住人の裕福な経済事情をあからさまに誇示する建築物である。
邸内はしんと静まりかえっており、植樹された木々からは、セミの声がひときわ耳に響いた。
雨上がりで玉石を敷き詰めた地面からむせかえるような草いきれを感じた。
地面に敷き詰められた玉砂利が足下に心許なかった。
足を取られそうになりながら、藤崎は浩一を玄関に連れてゆく。
鍵を取り出すと、電子音とともに、開錠。
藤崎は玄関口の警報機を操作した。
浩一は寝室らしき部屋に案内され、藤崎は浩一を寝かせると部屋を後にした。
浩一は天井がグルグル回るような目眩に悩まされ、藤崎の後ろ姿を見送っていた。
もう、動けない・・・
手足に力が入らない。 力が抜けてしまい、寝返るのも難しかった。
「浩一さん、大丈夫ですか? 」
「う〜ん・・・ 」浩一はもはや、熱にうなされたように目を閉じていた。
顔が赤く、息もあがっている。
「大変・・・ 」藤崎の声が遠くで聞こえ、再び浩一は意識を失った。
うなされながら浩一は夢を見ていた。
真っ白い霧の中に立っていた。
ミサトに名前を呼ばれ、声のするほうへ、足を進めると
いきなり霧の中から白い腕が伸びてきて、浩一の首を絡め取った。
そのまま、引っ張られると、媚びを含んだミサトの笑みが目の前に現れた。
「ぼっちゃま・・・」
ミサトの鳶色の瞳が浩一を幻惑する。
「旦那様が大変なことになってしまいましたよ・・・」
えっ、と浩一が身をすくませたが、ミサトは笑みを浮かべたまま、浩一を更に引き寄せてゆく。
浩一が腕を解こうとしてもミサトの腕はビクともしない。
ゆっくりと、ミサトの真っ赤な唇が浩一の唇を奪った。
ミサトの舌がツルリと浩一の口を割って滑り込んでくる。
浩一はその舌を悦んで受け入れた。
しばし、舌を絡ませてウットリとしていると、ヌルヌルとした唾液に血の味を感じた。
快楽のうねりに身を任せ、忘れようとしても、血の味はどんどん強くなる。
ミサトが唇を離すと、ミサトの真っ赤な唇から鮮血が一滴垂れていた。
「おいしいわ・・・ 」
そういってミサトは再び唇を近づけてきた。
「全部食べてさせてくださいね・・・ 」
ミサトは再び唇を重ねてきた。
「ウフフフ・・・・」
ミサトは、浩一の喉にガブリと歯を立てた。
その途端、浩一は、シンボルに堅い芯が貫くような異物感を覚えた。
浩一が身をよじろうとしても、ままならず、その芯は、グググゥーッと奥に突き進んでくる。
「ああっ! 」
ズキン、と痛みを感じたのも、ビクッと怖気走るような快感とまったく同時だった。
芯の先端が、なにかたまらない箇所に当たる。 グリグリとそれは、意図的にその部分を執拗に、刺激してきた。
「ングググ・・・・」死にものぐるいで身悶えるが、金縛りにあったように、逃れられなかった。
「あああっ! 」口の端からよだれをこぼしたまま、浩一は視界が真っ白に霞んでゆく。
「フフフ・・・・・・」ミサトも霧に包まれて、その笑みも霞んでゆく。
真っ白な霧の中で喉に堅い歯が食い込んでゆく。
シンボルをピーンと弾かれるたびにタマラナイ刺激が襲い、浩一は思わず大声を上げて喘いだ。
喉に立てられた歯が、ボリッと皮膚の下をかみ砕く音に浩一は夢から覚めた。
「ハッ! 」
浩一が再び目覚めると、藤崎が喉に唇を這わせていた。
暖かく肉感的が唇がヌラヌラと浩一の喉に吸い付いていた。
「あ・・・ 」部屋の中が真っ赤に映った。
ガチャン、浩一が上体を起こそうとすると、腕が頭上で縛られている事に気づいた。
ベッドではない、浩一は先ほど入った部屋にいない事を知った。
真っ赤な照明に、浮かび上がっている部屋の壁は、おどろおどろしい器具がぶら下がり、
浩一が縛られているのは、ベッドではなく、診察用の台だった。
膝を持ち上げられ、これもストラップで固定されている。
「あ・・・もう気がついた? 」
藤崎が顔を覗き込む。
「ここは・・・ 」
「治療室・・・ 」浩一の喉仏に歯を立てて藤崎がさえぎった。
「え? 」
赤い照明のせいで、藤崎も赤く目に焼き付く。
目を合わせたとき、その黒い目が妖しくキラキラと光っていた。
下腹部周辺に、藤崎の手のひらが滑ると、フワリと心地よい温もりが拡がってゆく。
同時に、ピーン、とシンボルが刺し貫かれるような刺激に仰け反った。
「うううっ!」
皮のベルトに両腕を固定されている。
「動ないでくださ〜い・・・」藤崎は体を起こし、あやすような口調で不安がる浩一を諭した。
脂汗を浮かべながら、浩一は自分の姿を見ようとした。
首に力が入らず、自分の体を見ることができない。 目を精一杯動かすと、自分の膝と爪先が見えた。
藤崎はそんな浩一の様子を意味深に眺めながら、浩一の股間に何らかの作業をしている。
ピーンと、またタマラナイ刺激に浩一は喘いだ。
射精とは違う、堅いスチール弦を弾くような硬質な感触だった。
クスクスと藤崎は忍び笑いを漏らし、何かを操作している。
「気になります? 」
診察台の傍らのワゴンに載ったトレイから、カチャリと注射器のような器具を手にするのが浩一に見えた。
それは、大きな注射器のような器具だった。
「ふ、藤崎さん! 」
「見ちゃダメ、見ない方がいいですよ?」
藤崎は手をかざして浩一の視線を遮り、再び黒い瞳で浩一を諫めた。
不安になる浩一に、藤崎は優しく微笑んでやったつもりであったが、
浩一には、その表情が妖しい笑みに見てとれた。
藤崎が浩一の下半身にかがみこむと、髪の毛がパラリと横顔にかかり、浩一から見えなくなった。
可笑しそうに笑みを含んでいるのが、チラリと見え隠れした。
「ふ、藤崎さん、な、何を・・・ハァッ、アッ! 」
ジョロジョロジョロ、と膀胱に向かって冷たい液が押し入ってくる。
痛みは一瞬で、射精のような快感が浩一を襲った。
「アグッフッ!」
ギュウウッと、流れ込んでくる。
「ハアァッ! アアッ! 」浩一は固定された両手脚をもぞつかせて身悶えした。
「すぐヨクなりますからね〜」肉感的な唇の端を吊り上げ、藤崎は妖しい笑みで浩一を見下ろした。
「ウァァッ! ヒャッ!」悪意が流れ込んでくる! 浩一の不安から恐怖が躍り出た。
浩一が悪意とおののいたソレは、真っ直ぐに浩一の核を捉えた。
外側からは手の届かない、触られたこともない核を強く刺激した。
その核は快楽。 手の届かない快楽の核だった。
浩一は気が狂いそうな、抗えない快感に身悶えした。
浩一の気分とは無関係に、暴力的な快感が下半身を凌辱する。
「あああっ! ひっ! や、やめろ! やめ、ヤメテクダハッ、ヒィ〜〜〜ッ! 」
「ン〜ン? 大丈夫、す〜ぐ楽になりますからー、ダーイジョウブですよ〜、浩一さ〜ん、暴れないで・・・」
浩一の取り乱しようにも、藤崎はまったく動揺の気配すら感じさせない。 鼻歌まじりにやってのけそうな、余裕すら感じさせた。 それは、看護婦の藤崎のごくありふれた日常すら感じさせた。
しかし、ここは病院ではなく、看護婦に指示を与える医師はいない。
看護婦が一人で浩一を拘束し、勝手に医療行為らしきことを施している。
痛みはない。 しかし、内臓に何か異物感がある。
浩一は必死に快楽意外の感覚に神経を分散させようとしたが、初めて味わう強い感覚に意識を保っているのが精一杯であった。
「おおおお〜 」
藤崎は、手のひらで浩一の下腹部をさすってなだめた。
「アア〜〜〜アアア〜〜〜」触らないでくれ、と言わんばかりに浩一は弱々しい目で訴えた。
「大丈夫、心配いりませんよ、浩一さん、大丈夫・・・・・・ 」浩一の意識が朦朧としてきた。
藤崎がカチャリ、と器具をトレイに戻し、両手の平でしばらくさすられていると、
「ハイ、終わりました、もう、辛くありませんよ〜、大丈夫ですよ〜」終わった、その言葉に浩一は意識が戻った。
「ラクにしてくださ〜い・・・・・・」浩一は味わっている間はあれほど苦しんだのに、開放された途端、先ほどの快楽を名残惜しんでいた。
ジーンとしばし、快感に痺れた後、浩一はだんだんと落ち着いてきた。
藤崎が額に浮かんだ玉のような汗を指先ですくって覗き込んでくる。
「落ち着きました? ね? 痛くしなかったでしょ? 」藤崎がニッコリ微笑んだ。
汗がヒンヤリと醒め、頭の中がだんだんとスッキリしてきた。
体がシャンとしたような気がして、浩一は首を起こすことができた。
「藤崎さん、ここは・・・ 」浩一はそう言いかけて、自分の下半身を見てショックを受けた。
全裸に剥かれ、そのシンボルには、チューブが刺されていた。
ちょうど、シンボルの先。鈴口一杯に太いチューブがブッスリと突き刺さっている。
壁一面に見たこともない器具がズラリとさがり、真っ赤な照明の灯る部屋に、浩一は産婦人科の診察を受けるような診察台に、全裸で固定されていた。
両脚は肘掛けのような台に固定され、脚を開かされた格好は、産婦人科で診察を受ける妊婦そのものだった。
藤崎には、浩一の恥ずかしい窄まりから、弱々しく縮こまったシンボルに至るまで丸見えにさらけだしているのだ。
驚きのあまり、浩一は声にならなかった。
先ほどのトレイには、注射器のような器具、ハサミ、何らかの薬瓶、清浄綿入れ、脱脂綿には、点々と黒いシミがついていた。
「フフフ、ビックリさせちゃった? 」まるで、現像室のような赤い部屋で藤崎に拘束されているのだ。
「ここ、私の部屋じゃないの、浩一さん、とても具合が悪そうだったから、ここへ移しちゃった」
そう言って藤崎は可愛らしく舌を出した。
「ここ、どこ? な、何をしたの? 」病院でないのは間違いないが、部屋は広く、八畳から十畳ほどあろう。
藤崎は悪戯っぽい笑みを浮かべながら、浩一から離れると、浩一に上から下までよく見えるように後ずさった。
赤い照明で色は確かではないが、藤崎はミニ丈のナース服を身につけていた。
「ここは・・・ 」藤崎が診察台をゆっくり廻りながら、微笑んでいる。
正規のナース服ではない、生地は照明を反射し、真珠のような光沢をテカテカと放っている。
藤崎は、浩一の目の前で立ち止まり、ナースキャップを手にすると、そっと頭にさし、両手を前であわせ、待機の直立姿勢をとった。
「集中治療室でっす 」言い終わるや、藤崎は吹きだした。
クスクスと目を細め、口をムズムズさせて笑いをこらえている。
「フフフッ、うっそで〜す、ここは、谷川先生のおうちのプレイルームで〜す」
「谷川? 今朝、往診にきたあの医者の? 」
「うん、しょの人っ」
藤崎はクスクスと笑っている。
「プレイって・・・・・・」浩一はSMは見聞きしていたが、現実に体験したことは、なかった。
「ここはね〜、あの人がこっそり作った趣味のお部屋 」様子の変な医者ではあったが、この部屋の様子は尋常な精神状態ではない。 谷川は今どこにいるのだろう。 こんな秘密の部屋にいて安全なのだろうか。
浩一は突然、他人の身の毛もよだつような倒錯した心の心象風景に置かれ、落ち着かなかった。
とにかくここから安全に出たい、 それを思案していた。
「すごいですよね〜 こんな趣味があったなんて・・・ 」そんな浩一の心情を知ってか知らざるか、藤崎はおしゃべりに夢中になっていた。
「知ってました? この部屋、SMをする為の専用プレイルームなんですよ〜 」
変だ。 浩一は一刻もここを逃げ出したくなった。 藤崎は谷川と何かあるようだ。
浩一は藤崎からその話題を聞かされたくなかった。
これ以上、秘密を漏らされてはたまらない。 とにかくこの部屋を出よう。 表情にジリジリと焦りが浮かんだ。
「ど、も、あの、もう、これ、はずしてくれないかな? 」浩一は努めて冷静を装うとした。
「フフフ、気持ちよかった? 白目になってましたよ」話がどうも噛み合わない。 浩一の不安はいや増すばかりだった。
「あの・・・」ゾクリと背筋に冷たいものを感じた。
「これ、クセになっちゃうから〜 フフフ、ソラッ、ツンツン! 」シンボルの先のチューブをコツンコツンと爪で弾かれる。
その途端、浩一は感電したように仰け反った。
「ワッ! 」
「それっ! 」もう一度藤崎が大きな円を描いたオーバーな仕草でチューブの端を弾いた。
「・・・わぁっ・・・くっ! 」おさまっていた快楽が、再びなだれこんできた。
「フフッ、そらっ 」ピシッ、とその衝撃は、浩一のシンボルの奥深く、タマラナイ臓器に鋭く伝わった。
浩一はビクッ、ビクッと何度もバネ板のように、たわんだ。
「すっかり感じやすくなったね〜、もうおなか一杯? もういい?」浩一は痛みに襲われているように、ピンと胸を反らせたまま、小刻みに震えている。
「ウウ・・・ウウウ・・・ハズシテ・・・」
よだれを流し、小さく首を振って唸っている。
「どうしょっかな? 」黒い瞳をキラキラさせて藤崎はコツン、コツンとチューブを弾く。
「ブワッ! ヒッ! も、モひっ、やめ、やめて! 」浩一は再び診察台の上で暴れた。
「え〜? 嫌〜・・・・・・フフフ」藤崎は浩一の訴えを、甘えた声で残酷にはねつけた。
「アアアン、で、でも・・・ハァ〜あ! 」指一本に浩一は翻弄されていた。
コツンと小さないたずらが、大きな刺激となって浩一に響いた。
「フフフ・・・・・」
「指一本で〜、浩一さんは私の意のまま〜フフフ・・・・・・ 」
藤崎は甘えた口調とは裏腹にチューブの端をつまんで小さくピストンした。
「アアアア〜〜〜 」
クルリと捻りをくわえると、浩一の声は綺麗なテノールに切り替わった。
「治療が済んだばかりでしょ? それにまだ話が済んでないの 」
「は、話ってっ 」
浩一の胸が激しく上下するのを、藤崎は癒すように手のひらで撫でながら口を開いた。
「浩一さん、さっきまでとても具合が悪かったんじゃありません? なぜだか分かります?」
苦しみから少しだけ開放されつつある脳細胞で、めまぐるしくシナプスがチカチカと瞬きだした。
「あ、雨にあたったからかな・・・でも今は楽になったよ、な、何をしたの?」
「もう、それをこれから順番に話すところじゃないですか」まだまだ自分が導いてやらねば、と優越感に酔うように藤崎は浩一を諫めた。
「浩一さんわぁ、毒をもられたんですよ 」チラッと唇を湿らせてから、藤崎はズバリと確信を指摘した。
「毒?」
「女が欲しくて欲しくてたまらなくなる媚薬。 メイドさんにもられたんです」
浩一もそれは、合点がいった。 具合が悪いというよりも、性欲が突き上げてくるような激しい衝動にかられ、自制が効かなくなっていたのだ。 それが、今はスッキリとしている。
「私が処置しておきましたから、今はラクでしょ?」優しく笑った顔に、ナースキャップがよく似合っていた。
「こんなことしない限りぃ、わぁ?」カツン、とチューブをきつく弾いた。
「ウウ〜〜〜〜〜」突然の刺激に、浩一は驚いたように反応した。
「フフ、刺激が強すぎる? 感じ過ぎちゃう〜? 」トロンとした目で見つめられると、目を逸らせなかった。
「って言うより・・・」藤崎はゆっくりと舌足らずな口調で続けた。
「気持ちいいみたいですね〜」浩一の内情を見透かしたように、ジロリと流し目をくれた。
コツコツとチューブの端をノックした。
「アアアアゥ! 」シンボルは弱々しく萎えているのに、突き刺さるように強烈な快感が下半身を襲う。
「フフフ、」コツッ、コツッ、と藤崎は爪で弾く。
「アアアッ! 」
処置とは、先ほどの器具で何かを注入したのだろうか、強烈な快感に浩一は意識が飛んでしまいそうだった。
しかも、浩一は奇妙な既視感を味わっていた。
この感覚は前にも味わったような気がした。
気がしたが、記憶は藤崎が刺激を送ってくると、雲が散ったように離散してしまった。
「もう一本、イッときましょうか・・・ 」藤崎は、そうつぶやくと、例の注射器のような器具を手に取った。
「ヒッ、ヤメテッ! 藤崎さん! 」
自由を奪われた診察台の上で、浩一はまな板に押さえつけられた魚のように空しくもがいた。
「藤崎さんっ! 」
「なあに? 」手際よく薬瓶から液をシリンダーに吸い上げながら、藤崎は職業的な動作を続けたまま、生返事をした。
「モッ、もおヒイィッ、ヤメテッ!」浩一の懇願も空しく、藤崎は器具のプランジャーをプッシュした。
「ダァ〜メ〜〜で〜すっ、フフフ、お注射をいやがる子供みたいよ、浩一さんったら・・・ 」
「ダメッテ! ソナッ! アアアア〜〜〜〜 」またも、ジョロジョロと冷たい薬液が、下半身に押し込まれてくる違和感に浩一は声をあげた。
「ほ〜ら痛くな〜い、ちゃんと入ってる、どんどん入ってくよ〜、ほ〜ら、痛くないでしょう? 」
「があぁぁぁぁ〜〜〜〜」痛みどころではない快感に、浩一は意識を失いそうだった。
「気持ちいいんですよねぇ? 声がでるくらい・・・・・・」見透かしたように、藤崎が意地の悪い言葉をかけるそばから、シリンダー内の薬液は全部入ってしまった。