転 男転がし
赤い部屋の中、診察台に拘束された男に、看護婦が馬乗りになって抱きついている。
二人は幾度かの絶頂を分かち、油のような汗に全身がギラギラと光っていた。
二つの激しい息づかいは、ピッタリと同調し、同じ行為を同じ時間、同じ状態で味わったことを意味した。
男のシンボルは依然、堅くそそり立ったままだった。
「う〜ん・・・ 」浩一は失神寸前だった。
薬の効果とあわさって、意識が曖昧だった。
それゆえ、「ほ、本上さん・・・ 」浩一の口からうわごとが漏れた。
降り積もった結晶の下から、快楽の芽が雪割草のように息吹いた。
「! 」
その一言にキッ、と眉を吊り上げ、浩一を睨む藤崎だが、浩一の知るところではなかった。
そして、ウットリと弛緩した浩一の幸せそうな表情とはうらはらに、部屋の赤い照明は、藤崎の顔に悲しそうな陰を落としていた。
悲しそうな陰は、すぐに、人間の強欲に醜く歪んだ。
看護婦の表情は、努めて笑みでかき消そうとしたので複雑な面もちだった。
全身に施されたミサトのマーキングに、藤崎は目を見張っていた。
当然である。 男の体の急所という急所に印しだとばかりに、くっきりとキスマークが赤く浮き上がっている。
それらは時間の経過によって、今は赤黒い瘢痕が花びらをちりばめたように浮き上がっている。
「あ〜あ・・・ こんなに・・・ 」溜息まじりに藤崎は、浩一に聞こえるか聞こえない程の小さな声で呟いた。
(ひとつ、ふた〜つ・・・ )藤崎はグッタリと陶酔に浸っている浩一のマーキングを順番になぞってみた。
浩一はこのマーキングがジリジリと肉の芯に向かって疼くのを感じていた。それは、ミサトの唇が、毒牙をたてたり、吸い付いたり、食い込むような痛みと快楽を伴って浩一を苦しめていた。
優しく肌をなぞってゆく看護婦の柔らかい指が、疼きを癒してくれた。
「ああ・・・ 」看護婦の指先に身を委ねていると、まるで筋肉が溶けてゆくようだった。
ミサトの呪縛の強さは、今まで見てきた男共の苦しみようでわかる。
ミサトに魅入られた雄は、その紫の花びらの刻印が消えないかぎり、ミサトの快楽を忘れることはできない。
獲物はがどんなに遠く離れ、ミサトの匂い、声が届かなくとも、この呪縛が雄を再びミサトのもとへと、駆り立ててゆく。
今の浩一もマーキングが疼いて仕方がないのだろう。
指先で軽く触れるだけで、浩一は唇を震わせて感涙にむせっている。
自分と一つになった今も、ミサトの事を考えているのだ、と思うと無性に腹が立ってきた。
回数、刺激の強さにおいては、ミサト以上の快楽を浩一に与えたにも関わらずだ。
「アフ・・・ 」
この恍惚に弛緩した顔。 自分だけが独占したかった。
誰にもみせたくない。 自分だけが知っている、自分だけにそうなる表情であるべきだと。
「浩一さん・・・ 」藤崎は浩一の頬から髪の生え際に指を滑らせながら話しかけた。
「み、ミサトさん? 」涙で目は霞み、声も誰の声なのか分からなかった。
少し、ハッキリとした話をする必要がある。
パーン、鋭い平手が浩一を醒ます。
「アウ? アアウ・・・ 」ウットリと弛緩していた浩一の表情が醜く歪むと、藤崎は少しだけ癒されたような気がした。
「これは、キスマーク? 」藤崎は悪戯をした子供に問いただすように、努めて優しい声で話しかけた。
「ハウハワワ・・・ 」
「浩一さん、ミサトさんとおつき合いしてるんですよね・・・ 」鋭い平手打ちで、幻想から醒めたような目で耕一は看護婦を仰いだ。
浩一が見た看護婦の目は、怒りに燃えているのが明白だった。
自分が何か気に障ることをしただろうか、浩一は曖昧な記憶の糸をたぐった。
汗がヒンヤリ冷めると、あれほど熱かった藤崎がひどく氷のように冷たく感じられてきた。
「ウウウ・・・ 」
くわえて藤崎が、快感を注ぎ込むのをやめてしまうと、麻薬の禁断症状のように、浩一は膝を小刻みに震わせ始めていた。
「私・・・ 」藤崎は依然として硬直したままのシンボルに指を絡めると、心ここにあらずと、そっけなく体内にとりこんでやった。
「あ・・・ 」シンボルは再び快感を受信し、心は子宮の中に誘われ安らぎを得たかのように弛緩してゆく。
「あああ・・・ 」
ミサトの中にでもいる白昼夢を見ているのだろうか。 やるせない溜息を漏らすと、藤崎は部屋の隅に目を逸らしながら、腰を前後に揺らしてやった。
ジーンと快感が子宮全体を痺れさせてゆく。 しかし、藤崎の気持ちは曇ったままだった。
「アアア・・・ いいよアイ・・・ 」浩一が看護婦の名前を口にした。
浩一が自分の名前を口にすると、急に気分がよくなった。
まるで雲の間から晴れ間が覗いたようだった。
そう、今、この瞬間に限って言えば自分の虜なのだ。
自分と肉体的繋がりをもっている今は、確実に自分の虜なのだ。
つまらなさそうに腰を振っていたが、わずがに意欲がみなぎってきた。
看護婦は若さと希望で気力を奮い立たせ、攻勢維持に努めた。
浩一を快楽のゆりかごに寝かしつけながら、藤崎は何かを模索した。
離れると、浩一は再びミサトを恋い焦がれるようになる。
自分も浩一に呪縛をかけてやればいいのだ。
肉体が離れても、心を繋ぎ止めておくミサトのような呪縛が必要だ。
しかし、浩一にミサト以上の呪縛をかけるのは自信がもてなかった。
なんといっても、浩一は「呪縛の刺激」 を受けて間もないヒヨコだ。
ミサトに負けない刺激は早急すぎる。
失敗するかもしれない。
浩一は自分のモノだ、藤崎はミサトにそのことを誇示してやりたかった。
そして自分の技術を誇示したい。
今までの雄はみな自分の責めに屈した。 ミサトはその点を高く評価している。
二人でチームを構成し、ミサトがやりやすいよう、最善のサポートも提供してきたのだ。
いつも、ミサトによって壊された雄の後始末をするのは自分だ。
浩一の父も、ミサトが墜としたあとのサポートは自分が引き継いでいた。
なのに、ミサトは未だに何をするにも、細かく指示する。
一任されているはずなのに、何か全幅の信頼を得られなかった。
ミサトと一緒では、いつまでたっても使われる立場である。
自分はミサトとは違う。
そもそも、責めの趣向で意見が食い違うことがしばしばあった。
ミサトから独立したい。そう考えるようになった。
ミサトと一緒では、いつまでたっても使われる立場である。
自分はミサトとは違う、違うのだ。
気に入った男さえ手に入れれば、すぐにでも自分中心の世界を築いてゆきたい。
自分の手にした世界でとことん自由を味わいたい。
なのに、ミサトに追い立てられるようにして、次の世界へ出発しなければならない。
自分は結局普通の生活に憧れているのだ。 いつまでも危ない橋は渡れない。
ミサトにもそのことを、はっきりとわからせてやりたい。
自分にはミサトより信頼できる、意のままに従ってくれる協力者が必要だ。
浩一は理想的だった。 今なら何色にも染められる、浩一が必要だった。
その為には、浩一にはもっと身も心も自分の虜になってもらいたい。
浩一を奪うにはミサトのマーキングより、もっと強烈な印しが必要だ。
(どうしよう・・・ )
「アウアウアウア・・・ 」
いつの間にか藤崎の下で浩一が歓喜の喘ぎを上げ始めていることに気づいた。
(フゥ、またイッちゃうのね? コウイチサン )
浩一は薬の効果で何度でもイケるだろうが、自分はそろそろ疲れ始めていた。
責めてばかりでは、疲れる。
自分も催淫剤を服用しているとはいえ、浩一程ではない。
今まで幾多の雄を地獄に引きずり込んだ代償に、効き目が悪くなっているのだ。
(フゥ〜〜・・・ )
この辺でイキヌキの必要を感じていた。
浩一に少し奉仕させるのもイイかもしれない。
今から浩一にしようとしていることは、かなりの神経の消耗がある。
失敗するかもしれないし、その前に浩一の奉仕を受けてみるのもいいかもしれない。
浩一がどんな風に女を愛するのかおおいに興味をそそられた。
「ウ〜ン・・・ 」
藤崎は思い詰めたように、視線が宙にソラし、ジッと思い詰めているように、固まっている。
「私・・・ 」
考えながらも、指をそっと浩一の胸に載せ、指先でキスマークを順番にたどってゆく。
数を数えるというよりも、一つ一つ、ミサトの唇の軌跡をたどってゆくように、スッ、スッと、指先を滑らせてゆく。
と、突然、頭の中で一策閃いた。
「ウン! 」何か考えがまとまったように、藤崎は一人頷いた。
「ウッ! 」
朦朧とした意識の中、浩一は突然、首筋に針の痛みを感じた。
一瞬のことで、何かの薬が脳内に注がれてくるのが感じられた。
また何か薬を打たれた。
「フフフ・・・そうだ、そうしよう・・・ 」
看護婦は目をギラギラと光らせ、注射器をトレイに戻し、浩一に向き直ってニッコリと笑った。
「アウウ・・・ 」浩一には、看護婦の笑みが意味深で不安だった。
藤崎は浩一の髪を手櫛ですいてやりながら、耳元に唇を寄せ、小悪魔の声で囁いた。
「浩一さん、 わたしも・印しを・つ・け・た・い・なぁ? 」
唐突に藤崎は切り出してきた。
「・・・? 」呻くように、小さく浩一は訊ね返した。
「つっけたいなぁ〜」藤崎は繰り返した。
何をしたいのか、浩一には分からなかった。ただ、藤崎の指がたどるミサトの刻印からウットリとさせる痺れを味わっていた。
「アイの印し・・・ いや? 」目をキラキラさせて浩一の目を覗き込んでくる。
「アウウ・・・ 」浩一は口が利けなかった。
「メイドさんはよくて、わたしは嫌なの?」
「ハワハワ・・・ 」目と、唇の動きで会話は進められた。
「フフフ、うれしい。」
「よっし、看護婦さん、がんばっちゃうぞ!」上機嫌にグイッと腕を捲る仕草でガッツポーズをとった。
「腕によりをかけてあげますね!」
「アウウウ・・・ 」
「じゃ、さっそく〜 」
藤崎は注射器の換え針のパッケージを取り出した。
業務用らしく、ミシン目で繋がっている。
パチンと一つを破ると、三つ一編に取り出した。
それを五つ六つ、破ると、トレイに並べた。
銀のトレイの中にカラ、カラカラ、と注射器の針だけが集められた。
「ア、あ、あの、ナヒフォ・・・ 」今度は口にできた。
浩一は急激に感覚が元に戻るのを感じた。
意識がはっきりと澄んでゆく。
「これ? 今は内緒 」
「それより、お口がきけるようになったね、 浩一さ〜ん? 」
「フフフ・・・ 」
藤崎は猫撫で声で浩一に覆い被さってきた。
「浩一さん、ずっとビンビンですよ・・・ 」
「アイがイイっていうまで、このまま・・・」
「何度でも・・・」
「何度でも、ずうぅ〜〜〜〜っと、イッチャウ・・・ 」
「でもそれだけじゃ、ダメ・・・ 」
「浩一さん、さっきはうわごとでミサトお姉様のこと口にした・・・ 」
「ご、ごめん・・・」
「ウウン、それはいいの、もういいの・・・ 」
「だって浩一さんは、ミサトお姉様の魔法にかかってるんだから・・・ 」
「誰でもそうなるわ・・・ 」
「でもね。 でも、わたしひらめいたんです。」
「ミサトお姉様よりも、もっと強い魔法を浩一さんにかけちゃおうって・・・」
「フフフ。 それはね・・・」
ほくそ笑んで藤崎は浩一の上で体の向きを反転した。
シックスナインの体位である。
「アゥ・・・ 」
片手でシンボルを掴むと、亀頭に巻き付けた人差し指がワイパーのような動きで先走りを塗り拡げる。
ビリビリと痺れるような刺激だった。
もう片方の手は浩一の乳首を執拗に刺激する。
爪のさきでつまんでいるのだろう。 痛いほどの刺激だった。
が、乳首を強くつままれれば、つままれるほど、シンボルの刺激がより鋭敏になった。
「ンアアア・・・・ 」
看護婦は浩一の顔の前でスカートをクルリとめくって見せた。
その意図する所は、今の浩一なら理解できる。
浩一の愛撫を求めているのだ。
浩一の眼前に看護婦の短いスカートから見える花弁が淫らだった。
それは、幾度にも及ぶ性行為によって部屋の照明の下でも真っ赤な薔薇のように肥大しているのが、見て取れた。
それがヒクヒクと震え、透明な液を分泌している。
透明な滴が浩一の目の前で糸をひきながら、垂れた。
ツゥっとそれは、浩一の唇とつながった。
浩一がむしゃぶりつくように蜜に唇を吸い付けるのと、看護婦が腰を落とすのは同時だった。
「ア〜〜ン・・・」
「ウブブ・・・ 」
新鮮な分泌液の匂いに嗅覚を弄ばれ、くわえてむせかえるようなフェロモンを胸一杯に吸い込み、
浩一は飢えた獣のように一心不乱に女の肉ビラを味わった。
「ウムムム・・・ 」ピチャッと浩一の唇が花弁に接吻し、舌先が女の敏感に肥大したスポットを刺激する。
「アハン! 」看護婦は鋭い電撃のような官能に痺れた。
ゾクゾクと背筋を粟立たせながら逆撫でするように快感が駈け上ってくる。
花弁から溢れる蜜は浩一の顔を淫靡に光らせるが、藤崎は料理を味わいながら、テーブルの下で男を挑発するミサトのように、浩一に新たな責めを仕掛けてゆく。
冷静に快感を味わいながら、正確に浩一を追いつめていった。
浩一は視界を女の臀部に遮られ、無心に花心を舐めしゃぶった。
下半身から快感が波紋が拡がるにつれ、看護婦の言ったことも忘れつつあった。
不安から逃れるように、女の肉に溺れた。
意識もハッキリとしだすと、先ほどの快楽が恋しくなった。
看護婦はもうじき、自分のシンボルを口に含むに違いない。
早くそうしてもらいたかった。
藤崎の舌使いはメイドとは別物だった。 ザラザラと堅く尖らせた舌頭が、シンボルの泣き所をこれでもかと、責め立ててくる。
(あのチューブ、またやってくれるのかな)
(今度はもっと気持ちよくなれそうな気がした。
(もう一度藤崎の中で果てたい。)
意識が円滑な連想ゲームのように、一巡した頃にそれは始まった。
「イタッ! 」
新たな刺激はなんの宣告もなく突然その最中に始まった。
チクリと胸に痛みが走る。 すぐにクイッ、と引っ張られる痛みがある。
「ヒッ、イタタ! 」ふたたび浩一は針が使われたのを理解した。
観ようとしても、藤崎が顔に載っているので、見えない。
チクリ、またも、クィッっとこらえがたい痛みに浩一は身悶えした。
「ああっ! 藤崎さん! 」浩一は看護婦の股間で痛みを訴えた。
「アンッ、歯が当たった! んもぉ!歯を立てないで! 」首を振って抗う浩一の頭を看護婦は、ギュウッと両太股の間で挟んだ。
柔らかい真綿のような女の太股が頭を押し包む。 キンキンと耳鳴りの中、更に痛みが浩一の性感帯を襲う。
「ウウウッ、ユァメテ! イタヒッ」看護婦の股間に挟まれ、くぐもった声で浩一は訴えた。
「あれ? 麻酔が効かないのっっぉ? 」とぼけた調子で藤崎は返事を返した。
「え〜っと・・・ 」浩一の痛みなどおかまいなしである。
「あっ! ごめんなさ〜い、お薬まちがえちゃったぁ〜」
ドラマ初体験のアイドル歌手のような、わざとらしい演技に違いなかった。
「あああっ、もっもうやめて! 」
「さっきの注射は浩一さんを素に戻しちゃうお薬でした〜 」藤崎はケタケタと無邪気に笑った。
「ひぃぇ〜! 」
意識がハッキリとしている分、痛みも格別だった。
と、言うよりも 媚薬で朦朧とさせられている時とは違い、
肉体が「痛み」を痛みとしてハッキリ認識しているのだ。
「今からアイの痛みを覚えさせてあげる・・・忘れられなくなるようにしちゃいますから 」
「アアッ! 」
浩一の頭を太股から解放してやると、藤崎が浩一の上で腰をあげて向かい合わせに座り直した。
自分の乳首が針で十文字に貫かれている。
「気を確かにね、とっても大事な痛みですから。 フフフ・・・」
「ヒィ〜〜! 」ビンビンと痛みが脈打っていた。
「お薬が効いてきたから、もう失神できませんよ 」
「イダッヒィッ、痛い痛い痛い、ヤメデッ! アイ!お願いだからもうヤメ・・・アアッ! 」
「ウフフ・・・そんなこと言ってるわりに・・・ 」
「ここはビンビンのままですね? 」藤崎は触手が巻き付くかのごとくシンボルに指を絡みつけた。
「ヒァッ! 」ゆっくりと指を滑らせるだけで、浩一は嘶いた。
人差し指でコツッ、と乳首の針を弾かれると、ビリッと電激が心臓まで到達した。
その痛みを相殺するかのごとく、同時に片方の手指がシンボルを滑らかなタッチで刺激する。
「イイイイ! 」
「いっそう感じやすくなってきたね! コウイチサン? 」
「グゥア〜〜〜! 」痛みと快楽の同時責めに浩一は狂乱させられた。
フフフ、と妖艶な笑みで針を引っ張ってやると、浩一はあまりの刺激にガクガクと震えた。
「うれしい、浩一さんったら、ますます好きよ 」