転 男転がし
診察台は二人の躍動にギシギシと呻きを漏らした。
上に跨った看護婦が、鎖をひきしぼると、リングがキンキンと軋んだ。
「うぐぁっ! ぶぁっ! 」
浩一は繰り返し大きく爆ぜた。
背筋は張り裂けそうになっていた。
「ぶふぅっ! 」
「いや〜ん 」
リングにかしめられた皮は、ちぎれんばかりに引っ張られ、鉄の匂いが錯乱した嗅覚に警鐘をつきつけた。
魔法のリングの効力は、尾骨から背骨の先までフレットにつっかえながら駈け上る。
浩一をくわえ込んだ肉筒は、幾重ものリングを連ねたように自在にくねった。
内側で膨張するシンボルを、内圧でがっちりと押し包んでいた。
藤崎の柔らかくよくしなる体のどこにこんな強烈な力が潜んでいたのか。
藤崎と交わった男はみな思い知らされた。
愛くるしい声とは裏腹に猛り狂う男のシンボルを絞め殺す。
「んぐ! 」
一つ一つの輪が縮んだり、拡がったりを繰り返し、故意にカサにひっかけられると、浩一は再び大きく弓なりにしなった。
浩一が反応すると、シンボルの先にあるロッドの頭が上下に震える。
丸いボールが藤崎の中をグリグリと予測不可能な動きで刺激する。
歯を食いしばって味わおうとしても、だらしなく開いてしまう。
「アハッ、アハアハハ!」
顎によだれをたらしながら、藤崎は口元を歪め笑い出した。
頭の中をくすぐられているような昂揚感を感じていた。
肉筒が意思とは別にピクピクと浩一のシンボルをしごく。
「んん! んんぐ! 」
暴れる浩一から振り落とされそうになる。
「アッ!トッ! フフフ! アハアハ!・・・ 」
上に跨った看護婦はさながら、荒馬乗りのように長い脚をがっちりと浩一に絡ませ、
後ろに回した手で浩一の玉袋を引っ張った。
「ング! 」
「フフフハ! アハ! 」
巧みな腰使いで悶絶する浩一を乗りこなしていた。
暴れ馬ならともかく、たかだか快楽に悶絶する男から落とされたことは一度もない。
手綱を引きつつ、肉筒をうねらせてやると浩一はピーンと弓になった。
「へグッ! 」
クイッ、クイッ!浩一の乳首を繋ぐ鎖を指一本にひっかけ、たぐってやる。
「ウッ!アアッ!」右よりか、
「ひぁっ!」(フフフ、左?)藤崎は浩一の両乳首を繋ぐ鎖を巧みに操り、より感じる方を執拗に責めた。
「クイクイ! ヒヒヒ! 」
「モ、モ! ヒゥ! 」
「フフフ、ンン? アハハ?」
「ヒィィアアアア! 」
藤崎が浩一の乳首に挿したリングの鎖をつまみ上げると、乳首はちぎれんばかりに釣り上がった。
浩一は首をブルブル振って、藤崎を振り落とそうともがいた。
藤崎が両太股で締め付けると、同時にシンボルも万力に挟まったように締め上げられた。
「イィィィ・・・ 」
ビリビリと引き裂かれるような痛みを、肉体は快感と取り違えていた。
脳内に快楽物質が異常なスピードで生成される。
「アアア・・・ 」今までにない異質の快楽だった。
「フンン? フ〜ンン? イイの? コウイチサン、気持ちいいのぉ? 」
「アアアッ! アアアッ! 」
噴き上がる喘ぎが止まらない。
「イイノ? 感じちゃう? タマンナイ? 」
チャラチャラと鎖を引かれ、責められながらも浩一は喋ろうとした。
「アアアアア! アアッ! アアッヒッィ! 」
ピ〜ンとショックが全身を貫いた。
舌が何倍にも腫れ上がったように口に収まりきらず、はみ出している。
「ウブウブ〜 」
「フフフ・・・ 」
体の奥から吹き上がるように、悦楽の息吹が吹き上がる。
肉煙突の中を悶々と悦淫が吹き上がってゆく。
快楽の火の元は看護婦に油を注がれ、囂々と勢いが増してゆく。
「アアアア〜! 」
肺が浮袋のように膨れ上がった胸で、銀色のリングがチリチリと震えだす。
共鳴するかのごとく、全身のリングが震えだした。
「アアアッ! 」
射精が胸から始まった。 乳首がほとばしっているしているような幻覚を味わっていた。
その現象は、すぐにあちこちで始まった。
藤崎の施したリング一つ一つが、植え付けられた魔法のペニスとなって浩一のここそこで、射精を始める。
「イ! イッジャウ、ヒィ〜〜〜」
「最高でしょ? 」
「消えじゃう! 爆発しじゃう! 」
「で・しょおおおぉ〜〜〜〜〜? 」
「ヒッ! イヒィィ〜〜! イグ!イブ!イブ! 消えじゃう! 」
「わかってきましたね! 浩一さん! 」
「イッヒッ〜〜〜! 」
「あっ! 一緒に! 一緒に! 一緒に! 」
一緒に、と藤崎は浩一を追いかけた。
絶頂を一足飛びに駆け上がる腰つきでよがり声を上げ始めた。
げぇ、と浩一が絶叫させられているところで、赤い部屋に似つかわしくないメロディーが唐突に流れた。
携帯の着信。
少し離れたスツールにかためられた衣服から鳴った。
浩一の携帯である。
浩一は失神寸前にあって、それどころではない。
しかし、藤崎は固まっていた。
携帯はピカピカと明滅し、赤い部屋の二人に小うるさく干渉した。
「ウ〜〜チクショウ! 」思わず藤崎はののしった。
藤崎も夢中で、浩一から離れるわけにはいかなかった。
視界が狭まり、頬がゾクゾクと粟立つ。 絶頂の予感。
「んん! 」呼びだしのメロディが、警笛のように耳をつんざく。
かまうものか、浩一に向きなおるや、藤崎は更に激しい腰使いで浩一と絶頂を目指す。
「切るの忘れた! 切るの忘れてた〜アンアン!」
さもくやしそうに激しく上下に腰を揺すった。
「んん〜〜〜 」唸る藤崎に、八つ当たりにされたシンボルはたまったものではない。
「あ! 」暴力的な快楽に浩一は白目を剥く。
と、今度は藤崎の携帯が鳴った。
当然のなりゆきだろう。
しかし、
絶頂を邪魔させてたまるものか、と、藤崎は無視を決め込んだ。
ダプダプと、肉の踊る振動で診察台をミシませながら、藤崎はかたく目をつぶった。
(もう一回・・・ )
「チクショ〜! 」
感に障る携帯のコールは鳴りやまない。
藤崎には携帯の相手が分かっていた。
医師の谷川ではない。
感に障る音だ。
自分で選んだメロディーであるが、しゃくに障る。
「ちくしょっ、チクショッ!も〜う! 出なきゃ! 出なきゃ! 」
いつも、指図される。
思えば、一所懸命看護婦を務めていたときからそうだ。 誰かが邪魔をする。
ああ、しゃくにさわる! メロディーが最初に戻り繰り返される。
「ムムゥ〜〜、ちょっと・・・ちょっとタイムね・・・ 」
曲を変えよう、このメロディはむかつく、そう思いながら藤崎は渋々浩一から離れることにした。
「アアッ! は、ななれないでっ! 」
浩一が繋がった腰を突き上げて暴れた。
「ん? 」
離れようとすると、浩一はむずがるのだ。
痛みと共に一つに繋がった肉体は、雌雄同体だった太古の思い出に浸りたがった。
浩一が抜けない。
「も〜・・・ 」
藤崎が腰を離さそうとすると吸い付いたように、浩一の腰が吊られてくる。
「エイ! ヤァ〜〜ァフフ・・・ 」我ながら吹きだしてしまった。
藤崎は慈愛に満ちた眼差しとは裏腹に、浩一の亀頭を渾身の力で締め付けてやった。
「ンアアア! 」
「ほ〜らッ! 」
キュッ、キュウゥッと、亀頭をもがんばかりの締め込みにくわえて、腰を上下に小刻みにグラインドさせ、ガタガタと激しい振動を与えてやる。
「グフ! 」
「あは!」ビクビクと藤崎の中で浩一は射精運動を始めた。
シンボルの先でロッドの端が、ストンストンと藤崎の肉筒の中で上下する。
「ああ! 」
浩一はイキを詰まらせて気を失ってしまった。
「フフフ・・・ 」ゆっくりと肉竿を抜き出してやる。
射精出来ないシンボルは、無声映画のような空しいカラ打ちをヒクヒクと繰り返していた。
と、ロッドがみるみると押し出されてきた。
(あっ! )藤崎は慌ててロッドを押し戻そうとした、が、やめた。
(もういい時間だし・・・ )診察台を降りると、クルリと背を向けて浩一から離れた。
「・・・ 」イケばいい、と思った。
背後で、プツッと切れる音ともにシンボルがロッドもろともほとばしった。
「ウェェエエエ! 」
解放された口から破裂せんばかりのぶちまけようだった。
「ブェ・・・ 」
チーン、と、リノリュームの床に、ロッドの金管楽器のような乾いた落下音が響いた。
ピシャピタと床を汚す滴の音も聞こえた。
(あ〜ぁ、出ちゃった・・・ )
ピクピクとひくつく浩一に、チラリと一瞥をくれながら、看護婦は電話に手を伸ばした。
藤崎はヒタヒタつま先立ちで携帯に手を伸ばした。
「ハァイ・・・ 」けだるげに藤崎は携帯に応答した。
「はやく出なさい 」
ミサトである。
浩一を送り出して時間は既に四時間になろうとしていた。
「何かあったの? 」声に張りが感じられた。
浩一の父を責め嫐っていたに違いない。
言葉責めした跡はいつも、声に張りがあった。
「別に〜〜〜〜 」浩一をこんなミサトの元に返したくない。
「浩一を出して 」ぼっちゃま、て呼んでたくせに。 ストローを折ってしまったような気分だ。
自分以外が浩一の名を呼ぶと、言いようのない思いに胸がつかえそうだった。
浩一は意識を失っている。 藤崎は一気に喋った。
「出ましたっ、クフフ・・・タップリ、ヒヒ、タァップリと、ウフフフフッ・・・ 」きまじめに喋ろうとしたが、こらえられず吹きだしてしまう。
自分で打った薬の効果で気分が高揚していた。
「・・・ 」携帯から耳に、唸るような溜息が伝送された。
「・・・今、のびてます」今のはまずかった。 藤崎は慌てて付け足した。
「・・・ やりすぎてないわよね? 」追求はグサリときた。
「今お返ししますから、確かめられたらいいじゃないですか」
「・・・そうするわ。ご満足かしら」
「とぉっても。 マーキングは意地悪でしたよね〜 」藤崎は険で包んで返した。
「フフフ、おきたら電話するように言っておいて」ミサトの余裕ある態度が藤崎を一言多く喋らせた。
「わたしもマネしてみまちた〜 」
「なにを言っているの? 」
「マー・キ・ング、マーキング・・・フフフ 」
「・・・アイ、あのね! 」
藤崎はミサトの雷が落ちる前にアハハと笑って電話を切った。
浩一を送り返さなくては。
が、その前に・・・
藤崎は口を覆いクスクス笑いながら浩一のもとに引き返した。
(呪縛を完成させなきゃ。 途中だったんだ・・・ )
藤崎は再び注射器具を手に、妖しくほくそ笑んだ。