転 男転がし

 アイは、ほとぼりが冷めるまで風俗に身を置くことにした。
 
 業種は性感マッサージを選んだ。
 男を患者のように扱いたいので、おのずと、男が受け身の業種を渡り歩いた。
 男を自由にできる術を知ってしまうと、触られるのも、組み敷かれるのも耐えられなくなっていた。
 自分の都合のいいように、客をコントロールできるのがありがたかったのだ。

 病院で覚えた男を骨抜きにする焦らし、生殺しから足下に屈服させる過程に、異常な興奮を覚えた。
 恥ずかしい姿で自分に跨がれた男の、苦痛と快楽に歪む顔を見ていると、胸がはずんだ。
 苦痛と快楽、破壊と創造、喜びと悲しみ、両方を交互に奪ったり与えてやると男はいいなりだ。
 隆々と硬直した幹の先から樹液のような我慢汁をしたたらせながら屈服する。

 苦痛と快楽、人間は両方を駆使する存在の前では無力だった。
 「あなたもアイにハマッちゃったね」
 男はアイに嫐り抜かれ、自我が崩壊し、魂のない木偶人形に成り果てる。

 征服され、支配されている男の悶絶のよがり声は耳に心地よかった。
 もっと聞きたい、悲しい過去まで癒せとばかりによがらせた。

 夜景の見えるホテルのスイートで、カーテンを開け放った窓ガラスに両手を付かせ、後ろからいたぶってやったこともある。
 そんな時、ふと部屋の窓に写った自分は、あの表情だった。
 甘い蜜のような他人の不幸を味わっている、あのトロンと弛緩した眼差し。
 うっすらと釣り上がった嘲笑を浮かべた口元。
 墨のようにどす黒い色をした毒の蜜。 その甘さに舌が溶けそうになる。
 味わったら最後、心まで真っ黒に染まる悪意の妙。
 自分が男を堕落させる妖女にでもなったような気分。
 何よりもえらくなった気分だった。

 ただし、
 それはプレイ中のお遊びだ。 
 客は終わった後はみな来たときと同じ状態で別れる。
 アイは、そんなあと、夢から醒めたようなむなしさを感じた。

 そんな頃ミサトに出会った。
 その頃と今とでは、ミサトと言う名前ではなく、印象も違っていた。
 そこは、ある会員制の倶楽部だった。

 ミサトは店のオーナーと親しく、特別な予約の客のみこなしていた。
 たまに短時間の講習をしてくれることもあった。
 ミサトの講習は得るものが多くあった。

 このクラブは女性のレベルが高い。
 この中にあっては、アイの容姿も十人並みだった。
 みな得意とする技巧をもち、初めての客は確実に指名につなげる。

 アイは指名が思うようにはいらず焦っていた。
 指名がとれないとお茶を挽くことが多くなり、そういう子はそのうち自宅待機を勧められる。
 そうなったら店待機に戻れることはない。

 この店で働きたかった。
 何よりも客層がおとなしく、従順なので、仕事としてはやりやすかった。
 指名をかせぎたい、もっとたくさんプレイがしたい。
 しかし、何かぬきんでたテクニックがなければ、指名はとれない。
 アイはミサトがどうやって男を虜にしているのか、興味があった。
 本番は御法度の店でどうやって男を指名客にとりこむのか。

 アイはミサトの客に待ち伏せをかけ、少しづつ聞き出した。
 ミサトが何をしたのかを。
 どうやって客を喜ばすのかを。
 聞き出す手管も知らず知らずに上達した。
 聞き出したテクニックをその場で試してやれば、更に新しい情報を吐き出させることが出来た。
 同時に飲み込みの早いアイを指名してくれるようになった。

 ある日ミサトが声を掛けてくれた。
 ミサトは自分の指名客がアイに流れても一向にかまわないようだった。
 アイの一風変わった雰囲気に何かを感じとったようだ。
 都合が合えば声を掛けてくれ、色々と特別なアドバイスをくれるようになった。
 そのうち、アイをヘルプに呼ぶようになるまで時間はかからなかった。
 ミサトと3Pのパートナーに選んでくれるのだ。

 アイは3Pは初めてではないが、ミサトの性感プレイの導入は目が離せなかった。

 まず、部屋に入ると、客と軽いスキンシップを行った後、客一人で先にシャワーを浴びさせる。
 ミサトはその間にアイとベッドメークを行い、部屋に香をたく。
 ミサトは途中からアイに仕度をまかせ、自分は下着姿になるとシャワー室に消えた。
 
 しばし、男の微かな喘ぎが浴室から漏れてくる。
 ミサトのクスクスと笑う声は、淫らで、鈴の音のようだ。
 シャワーの流れる音に混じって女の忍び笑い、男の狂おしい息づかいが薄暗いベッドルームで待機するアイの欲情を刺激する。

 香の匂いが鼻腔をくすぐる。
 キャミソール姿のアイはベッドに腰掛け、太股をすりあわせて妙な高ぶりを味わっていた。
 何度も大きく深呼吸をした。
 この匂いを嗅いでいるとムラムラと下半身が疼く。
 
 バスルームから漏れるミサトと客の声が頭の中に響き、見えるはずのない二人の痴態が目に浮かんだ。
 独特の香の香りが部屋に充満し、煙が立ちこめる頃に浴室の扉が開くと、ハッとアイは我にかえり、タオルを持って二人を迎えた。
 客は不抜けた表情で、既にミサトの言いなり状態に陥っている。

 客は勧められるまま、ベッドに俯せになる。

 まずは軽い指圧から。
 アイは男の頭を膝枕してやり、俯せになっった客の背中から後頭部をマッサージしてやる。
 指の腹を使い、ソフトな刺激からだんだん肉がつまめるようになるほど、丹念にほぐしてゆく。
 ミサトは下半身、腰から下を丁寧にほぐしてゆく。
 やさしい声色で話しかけながら、ときおり、性感帯を焦らすように、刺激して期待をアオリながら本格的なマッサージを施してゆく。

 どこが気持ちいいか、これは痛いか。
 つねったり、揉んだり、さすったり、そのうち客の身体が突き立ての餅のように、ふっくらと柔らかくほぐれてきた。
 この頃から客は時折、腰をモゾモゾさせる。 ツボを刺激され、身体の芯からこみあげてくる熱いマグマが、早くもシンボルにみなぎってきたに違いない。

 客が苦しそうに腰をモゾモゾさせると、ミサトの指が軽く尻をなぞり、袋のほうまでくすぐってきた。
 ピクピクと腰を浮かせる様を、ミサトとアイは淫靡な忍び笑いで辱めた。

 「じゃ・・・性感刺激を始めます・・・」
 いよいよ、性感を刺激するマッサージに入る。
 アトマイザーにかけた真珠の混ぜられたパウダーを振りかけ、まんべんなく塗り拡げながら、手のひらをよくなじませる。
 象皮を軽く羽根でなぞるように指が背中に文様を描き出す。
 感じやすいところでは酷くゆっくりと、爪先だけで幾度も焦らす。
 客がよがりだしたら、手のひらでさすって、もう一度最初から焦らす。
 その繰り返しだ。

 アイも見ているだけではない。二人の、四本の、二十本の指が巧みに客の性感帯を
 だんだんと客は声をかみ殺せなくなり、震える唇から悦楽の熱い喘ぎが漏れ出す。
 ミサトの問いかけに最初こそ言葉を使って応えるが、やがて母音のみの声と全身をヒクつかせて反応するだけになる。 今回は割と早いうちから夢うつつの状態に入った。

 前の客も、その前の前の客もそうだ。
 みな、分厚い日常の皮を剥かれ、生身の性感帯を嫐られて悶絶地獄に堕ちてゆく。

 俯せで性感が目覚め始めるとキツイ。
 尻の割れ目をミサトの白い指がなぞってゆくと、客は無意識に腰を持ち上げようとする。
 ミサトはニヤニヤしながら、軽くいなす。

 「あ、あのっ! い、」
 「はい?」二人とも客がどういう状態にあるのかは百も承知である。

 「な〜んでしょうか? 」クスクスとアイが、吹き出しそうになるのをこらえながらとぼけた。
 「あ、あの、」

 「い、イキソウでう!」「イキソウなんでしょ!」アイが客よりも早口で指摘した。

 「フフフ・・・苦しそ〜だね〜 」アイは脇に指を軽く滑らせくすぐった。
 「あああ・・・」

 「ええ、わかってるわ、いいわよ・・・」ミサトが静かに許しを口にした。
 「あ、あの今、イクと、も、もう無理かも・・・」

 「そう?」口調は淡々としているが、性感帯をなぞっていた指は股間をくぐって前に潜り込んできた。
 「あああ、あの、もう、もう、イヒィ! 」

 玉袋をチョロチョロとくすぐっていた指はシンボルにクルリと絡みついた。
 「イッテみないとわからないでしょう?」
 シュルシュルと滑らかに指先が前後にスライドする。

 「イッチャイましょ?」
 触れるか触れない程度の締め付けでカリに指が素早く擦れる。

 「ほら、」
 シュッシュッとカリに擦れるたんび、ビリッと快感が電気のように走る。

 「イッテみなさいな」ミサトは強、弱、弱、のテンポで巧みにカリから幹を刺激した。

 「逝っちゃえ〜〜〜 」アイも乳首を嫐りだした。 マメを手のひらで転がすように乳首をコロコロと嫐りだした。

 「悪い膿は全部だしちゃいましょう、ね?」ゾクリと股間が激震した。

 「ほぉ〜(クスクス)らっ!」目をつぶると二人の艶声がいっそう耳にリンリンと響いた。

 「ホァオラァ!(アッハハ)」音頭に踊らされる自分がいた。

 「震えてますよ? ほらっ!」ガクガクと震えが止まらない。 身体が二人のお囃子に勝手に踊り出すようだった。

 「大丈夫? 」大きな波が迫ってきた。

 「そら、イッテいいのよ」快楽のつまった袋は、ズキンと更に膨らんだ。

 「い、イグっ! イグゥ! 」口から泡を吹きながらうわごとのように繰り返した。

 「さぁ、イッテごらん・・・ 」自分の身体がどこかに猛スピードで向かっているようだった。
 まるでジェットコースターに乗っているような体感を覚えた。

 「どっぴゅん!って(プハハ!)」アイの黄色い声と同時にはじけた。
 「イキナサイ!」
 「ああっぁ〜〜〜!」自分の内なる血液の流れる音に耳が聞こえなくなるくらいだった。
 
 ガックリと客はベッドに崩れた。が、ミサトはシンボルから手を離さない。
 最後の一滴まで絞るようになおも扱き続け、むずがる客の足を開かせた。
 射精に合わせてそこはヒクヒクと戦慄いていた。
 玉袋をソッと指先でくすぐりながら、片方の手はその周囲に指をそよがせた。
 コチョコチョと指先が、ときおり窄まりをくすぐり出来具合に探りをかける。
 いい塩梅、ミサトはアイに目で合図した。
 

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メイド 魔性の快楽地獄