転 男転がし
天井からの照明を背中に受けて、ミサトは影法師のようだった。
輪郭が汗でギラギラと輝いていた。
ふんわりと、包み込むようなミサトの匂いがした。
この匂いは、たまらなく淫らな気持ちにさせる反面、どこまでも運命をゆだねてみたくさせる、そんなやさしい匂いに感じられた。
ミサトは誰も傷つけるつもりはないのだ。
匂いがそれを伝えてきた。
ミサトの言葉に身をまかせて、すべてをさらけ出せばいいのだ。 アイは、そう理解した。
前にもそうだったではないか。
よく思い出せなかったが、そんな既視感があった。
スカートを脱いだミサトは、ブラウンの光沢のあるナイロンストッキングを、ガーターベルトで吊り、薄く黒い生地に赤いバラの刺繍をあしらった扇情的なショーツを身につけていた。
締め切った部屋のせいで、それらは汗でぴったりと肌と同化していた。
ミサトの脚には、汗以外の、幾筋ものシミが腿にスジをこしらえていた。
その幾筋ものシミはとぎれることなく、新しい流れを生み出してゆく。
「熱いわ・・・ 」ミサトの瞳が、鏡を、自分の姿を写す物を探して部屋の中をさまよう。
汗はあごから、シトシトと、アイの体にも垂れた。
「んぁ・・・ 」すっかり敏感になった体に、ミサトの汗は溶けた蝋のように熱く感じられた。
「んん? 」ミサトはアイが敏感になっているのを充分承知で、わざとアイのツボを狙って汗を落とした。
「熱・・・ あ、アツィ・・・アアアン・・・ 」
「フフ、熱いって?」
その切ない声は、低いミサトの声とは対照的で、女に嫐られるという倒錯的な状況にマッチしていた。
「アア・・・」眉を寄せ、クウクウ、と鼻にかかった声で鳴く姿がミサトを惹きつける。
愛おしい気持ちと同時に、わがままが許せなかった。
可愛いさあまって憎さ百倍、愛奴をいじめてもいい理由を得て、ミサトは残酷な笑みを浮かべた。
「しばらく可愛がっていないのに、いい声で鳴くようになったのねぇ?」
ミサトは脚の一部であるストッキングを、クルクルと脱ぎ始めた。
「おとこ漁りの成果かしら? ねぇ〜? フフフン 」
片方を抜き取り、アイの顔に落とした。
「アウフ・・・ 」
アイは蜘蛛の巣をかぶったように、顔をしかめた。
「えぇ、えぇ、かまいませんとも〜」
ミサトは、もう片方もおろしながら、ニコニコ笑っていた。
「かまわないわよぉ〜〜 猫ちゃんの勝手よね〜〜」
また顔を狙って落とした。
「あああん! 」アイをからかって焦らした。
「でも、私の邪魔は許しませんから!」
抜けるように白い脚が乱暴にアイを裏返した。
ゴロンとアイはうつぶせになった。
「アアッ・・・」
簡単に転がったのは、もはや、アイがミサトの「操り」にかかっていいることを物語っていた。
アイはミサトにつつかれて、みずから、うつぶせに転がったのだった。
アイだけではなかった。
こだわり、プライドを砕かれ、ミサトの「操り」にかかった者達はみな、途中から進んでミサトの糸に操られるように、スイスイとミサトの意のままに、犬にも、猫にもなる、ミサトの快楽に従順な獣に墜ちる。
「アアアッ!」
今のアイも、ミサトの操り人形だった。
「ハゥッ、ハゥッ! 」
腰を高く突きだした無様な格好だったが、アイはそんなことにはかまっていられないほど高ぶっていた。
しとどに濡れそぼった肉ひだはまっ赤に熟していた。
肉の花は、毒針を持った蜂達を誘うように、蜜を流していた。